獣の海と雫の方舟 (ページ32)

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２９話ページ32

後日、早朝５時の事。廊下からけたたましい金属音に叩き起こされる。

「起きなさい！起きろ！訓練の時間だ！」

何事だろう。夜行性ではないが、昨日は寝るのが遅かったから起きたくない。
枕で両耳を塞ぎその上に布団を頭から被る。それでも音は止まないので、騒音に顔をしかめて安眠を邪魔されたことをぼやきながら仕方なく布団から出た。
いくらこのフロアに夜行性獣人がいない、とはいえ流石に寝不足の上に早朝から騒音はきつい。しかも訓練、等とも言っていた気もする……。寝癖は直さないまま、もぞもぞと芋虫のような動きで着替えると愚痴をこぼしながら廊下を覗く。名前もしらない女性獣人が室内なのにサンバイザーをかけてフライパンを叩いている。

「……何事っすか」
「訓練の時間だ」

なんの予告もなく当然のようにいい放たれた。ほかの獣人の部屋を見る。彼らはすでに起きているが不満そうにしているか眠たげかで、乗り気な者は少数だった。

「……くんれんなんてきいてないよー……」
「昼からでもいいでしょ、なんでこんなはやくなの？もーちょっとねかせて～」
「…………なにも言われていないのは俺だけじゃないみたいだな」

フライパンを鳴らす彼女と極力目を合わせないよう素通りする────ことはできなかったようだ。
服の襟を捕まれて持ち上げられる。どこにそんな怪力があるのか、俺は猫のように簡単に宙に浮いた。

「どこにいくんだ？」
「………えと、ちょうしょくと、顔を洗いに………」
「ならよし、終わったらそのままリビング待機だ。」

鋭い眼光で睨まれてひぃ、と萎縮する。手を離され地面に着地するとそそくさとその場を去った。