獣の海と雫の方舟 (ページ28)

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２５話ページ28

その日は仕事を終わらせて暇になった時や食事や読書の時間なんかに度々老人の話を思い出していた。
ぼうっと何もしない時間に、思い出す。
彼は誰かから聞いた話というよりかは、実際に体験したような話し方をしていた。みた感じ齢70後半といったところだと思うが実際はいくつなのだろうか。
話の後偶然書庫にきたサクラが言っていた。

あの人はふらっと現れては子供達に言い伝えを話してすぐに帰っていく。名前は誰もわからないらしく皆言い伝え爺と呼んでいるようだ。

『あぁ、言い伝え爺の話聞いてたの？爺の話の真偽はわかんないけど、もし雫が街を守ってるってのだったらそれは本当だよ。この島の獣人ならみんな知ってる。』

彼女から渡された一冊の本。さほど分厚くはない。ポケットサイズの図鑑程度のもので知識よりかは読みやすさを重視されたのだろう。
タイトルには、【五つの雫】とかかれていた。
現在俺はそれを読んでいる。
言い伝えなどではなく、普通に雫とこの街の関係性を信憑性の高いものだけ載せている。

「…雫は街に五つあり…目には見えない透明な壁をつくっている。街を大きく破壊したハンター達が実際に壁にぶつかって、彼らは壁の破壊を試みたが武器も貫通しなかった。壁の効果は２ヶ月に一度薄れるので、その日は注意が必要。」

その一段落は襲撃で被害を受けた地域と無害だった地域の境目を思い出させる。あれが、それぞれの雫の領域のようだ。街に害をなすものは拒む。ハンターは雫に拒まれて、一本の道よりも先に進むことができなくなったのだろう。

「…なお、雫の詳しい場所は不明。壁の範囲を調査した所、下の図のようになった…。」

地図は色分けされていて、境目は曖昧だった。とくに無色の場所と黄色の部分がわかりづらい。随分前に書かれたものなのだろう、挿し絵だけが色褪せていて文字もかすれている。コピーすればいいのに、丁寧に手書きでそれを本に張り付けている。
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