獣の海と雫の方舟 (ページ26)

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２４話ページ26

「獣は化け物と呼ばれたさ。それが歩いた場所の植物は腐り溶け、水は汚れる。

ただ、そいつには悪意というものがない。自身の周辺の生命を奪う、そういう存在なのだ。一人でいることをそいつは拒んだが当然獣と人はそれを拒んだ。
化け物は一人でいたときよりも苦しんで悲しんで、虹色の涙を流す。遠くからその化け物の姿をみた四人の人間は自分の醜さに心を痛め、同時に化け物のその涙を流す姿の美しさに心を奪われた。その虹色の涙には魔法があったのかもしれないな。

次の日、その四人は街の者達の反対を押し切ってまで化け物の側に寄り添った。最初は戸惑っていた化け物もすぐに心を開いたが、人間達は体が持たなかった。
初日、頭痛。二日目、皮膚が爛れる。三日目、体が動かなくなる。四日目、足の先から溶けていく。五日目で意識はなくなり完全に溶けきった。

それでも人間達は構わなかった。力に魅了されてしまったからな。化け物は彼らが意識を手放したのを見届けて、また涙を流した。今度は透明な透き通った涙だった。朝も昼も夜も、何日もなき続けてとうとう涙が枯れた時には_____化け物は死んでいた。

なぜ死んだのかはわからない。ただ化け物がいた場所には真っ白な水溜まりがあり五つの宝石があった。」

五つの宝石、という単語にぴくりと体が反応する。彼はそれに気づくと口元の髭を揺らして少し微笑んだ。

「そう、そうだ。それが雫の誕生であり、同時に獣の街の誕生でもある。石はいつのまにか、それぞれ自分の気に入った場所でも見つかったらしく移動して街の人達に不思議がられたね。気味悪がりはしなかったらしいがな。それから少しして、人は獣と絆を結びそれを形にできるようになり、街はどんどん発展していった。これが今の中央区となる。雫は、街の命であり、守り神でもあるのだよ。街に害をなすものは拒むらしい。雫はちゃんと、自分の領域を自分の場所で守っているのだろうな。」

それが本当かはわからんが。と付け加えると俺に目を合わせて微笑んだ。すこし曇った目をじっとみているとなんとも不思議な気分になる。のっそり立ち上がると杖を手にして
「聞きたいことはあるか」
と言う。もちろんある。頭に用意していたものがすっと口から出ていく。
「シズク…雫が人の姿をしていたとしたら。」
「前世の姿かも、しれないな…。それでは、またいつか。」

カツ、カツ。杖で地面を二回叩くと瞬きの瞬間に彼は姿を消した。