第一話『出会い』 ページ2
side:貴方
ここは埼玉県の私立高校『森然高校』……の向かい側に位置する国立高校『関東教育大学付属艮高校』、通称『ウシトラ』である。
森然で梟谷グループ男子バレー部合同合宿が行われているように、ウシトラでも梟谷グループに属する学校の女子バレー部の合同合宿が行われていた。
もちろん、私たち音駒女子バレー部も――――
ジリジリと肌を焦がすような熱が体育館でこもり、まるで出来の悪いサウナのような蒸し暑い空気が流れる。
「はい!」
両手をレシーブの構えで出して、床に滑り込む。
兄仕込みのしなやかな体幹の動きで胸を思いっきり打ち付ける事なくスライディングすることができた。
床がちょっとだけひんやりしてて気持ちいい。
合同合宿では、練習試合で一番多く負けたチームがこうやってスライディング練習を全員十回ずつすることになっている。
梟谷、森然、生川、そして艮。
どこも強豪校ばかりで中々勝てないが、それでも確かな経験になる。
ようやく十回終わった。休憩時間だ。その時、後ろから肩を叩かれる。
森然のキャプテンだ。
「Aちゃん。このボトル、路上に落ちてて、多分男子が落とした奴だと思うんだけど、私は用事があるから届けに行ってくれない?」
特に断る理由もなく私は受け入れ、黄色いボトルを受け取った。
白く輝く景色、陽炎に揺れる森然の校舎。
なるべく早く用を済ませようと入り口の階段を駆け上がる。
そして体育館まで小走り気味に向かっていた時。
(そういえばここで鉄にいも合宿してるんだな……)
そんな事を考えてつい注意散漫になっていた。
「うわっ!?」「キャッ!?」
胸元にどすんと何かが当たる音がして、バランスを崩し後ろに転ける。
(うわっコンクリート熱っ!)
思わず飛び上がると、ぶつかった相手が口を開いた。
「大丈夫?」
背は190ぐらい。色素の薄い癖っ毛の短髪で白い肌。
黒縁メガネの奥で蜂蜜色の目が揺れる端正な顔の青年だった。
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作者名:叫星/テツロー | 作成日時:2021年8月12日 3時