後の世も ページ10
それから黒丸は、幾度も新しい主を迎え、その度に別れを繰り返してきた。
何百年にもわたる時の中で、幼子じみた容姿だった黒丸は美しい青年へと成長していた。長い黒髪、黄色く輝く目、女性のような白磁の肌と美しい顔。
ろくに動かしたことのない細い手足は、より一層白かった。
黒丸が見える主もいれば、全く見えない主もいた。それでも皆、黒丸のことを心底大事にしてくれた。先祖代々の代物だから、武具が好きだから、素晴らしい逸品に見えるから、ただ単純に美しいから。
理由は多岐にわたるだろう。なんにせよ、主は皆黒丸のことを愛したし、黒丸も主を愛したのだ。
例え部屋から一度も出ることがなかろうと、黒丸は満足だった。
そして今黒丸はいつも通りに、主との別れを迎えようとしていた。いつも通りに座り、主を優しくなでる。弱々しい呼吸を聞きながら、最後の最後まで幸福を祈る。
いつもと違うのは、それがおそらく「最後の主」になるであろう老人ということだ。
彼は、珍しく黒丸の姿がはっきりと見えて声が聞こえる人間だった。
少年のころから病弱で、黒丸のことだって最初は死神だと思ったそうだ。
外で遊ぶことができず、その分家の中で本を読むことが好きな賢い子供だった。学んだことを心底楽しそうに黒丸に教えに来るような、素直で可愛い子だった。
彼は、病弱なりにできるだけ無理をしないように生きてきた。だからこそ、ここまで長く生きることができたのだ。
前の主・・・彼の父親は、家が続くかどうかを些事と思うような御仁だった。だから、今の主には嫁を貰うことを打診こそしたけれど強制はしなかった。
最期まで自分の思うように生きてみたい。知識を得ながら生きたいと願った主。
黒丸とともにいたいと願った少年は、優しげでやせ細った老人になった。
「黒丸、すまないね。私で、君の最初の主の血を引く「主」が最後になってしまう。」
『・・・良いのですよ。最初の主の願いは果たされました。あの方の子ら、ひいては子々孫々を見守ることが私めの務め。』
そう、最初の主の願いは果たしたのだ。
黒丸としてはもう思い残すことはない。
「私を恨んではいないか?」
『何をおっしゃいますか!私めのような槍ににたくさんの知識を授けてくださったこと、感謝こそすれど恨む道理はありません!!』
こんなに優しい主たちに巡り合ったのだ。この先我が身が朽ちようと、構いはしない。
最後の主は微笑んで、安らかに眠った。
最初の主と同じように。
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黒ノ酢(プロフ) - Qたんさん» 勘違いが好きなんです(o´罒`o) (2018年12月19日 9時) (レス) id: 3f437a82fa (このIDを非表示/違反報告)
Qたん - すごい勘違いですね・・・・・・・・・・・・ (2018年11月17日 0時) (レス) id: 1e4cd3bd39 (このIDを非表示/違反報告)
とむら(プロフ) - 黒ノ酢さん» はい、大丈夫ですよ。寧ろ意見を聞いて下さり嬉しいです。楽しみに更新を待ってますね (2018年8月22日 3時) (レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - とむらさん» 愛されの方向で固めたいと思います!他の方の意見次第では、少し特定の男士によるかもしれませんがよろしいですか?それから、勘違いはまだまだ続く予定です。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - 152339さん» ごめんなさい!考えている大まかな展開ではまだまだ勘違いが加速していくのです。御気に障ったのであれば申し訳ありません。愛されがいいという方もいるので一概には言えませんが、気持ち鶴丸寄りになると思います。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒ノ酢 | 作成日時:2018年6月21日 17時