過ぎ去りし ページ8
人の子の生は、ひどく短い。
この前まで風雷丸と名乗っていた幼子は、いつの間にか違う名を名乗っていた。主は、幾分か小さくしわくちゃになり、白髪が目立ってきた。
たったの二十年でここまで変わるものかと、黒丸国光は思う。
ある日のことだった。
いつも通り主は黒丸国光に話をしに来たらしい。年のせいか背を伸ばして座るのも辛いらしく、壁にもたれている。
「なあ、黒丸国光。わしは、孫の顔が見れたぞ。龍鉄の・・・風雷丸の娘じゃて。」
『おや、あの子にも子供が?』
主は、黒丸国光の声が聞こえない。姿が見えない。二人の間には風雷丸がいないと会話が成り立つことはないのだ。それでも、この小さく狭い部屋に主は通い続けた。黒丸国光は声に応え続けた。
今日の会話だってその延長のはずなのに、なんだか今日は主の様子がおかしい。
「可愛らしい子供だった・・・今わの際にあの子を見れて、わしは幸せだ。」
『今わの際!?なんてことを!!』
「子らをお前が見守ってくれたなら、心配することなどもうないだろうなあ。」
いつの間にかずいぶんと弱々しくなってしまった主。自らの死期を悟っているのかもしれない。黒丸国光はそれが悲しくて仕方がなかった。
何しろ最初の主にて名付け親、死んでほしくなんかない。
主の独白は続く。
「黒丸、すまんなぁ・・・一度も外に出してやらなくて。戦でお前を折るのが恐ろしくてな、閉じ込めてしまえば傷つかないと思っていた。この狭い部屋から出すことができなかった。」
『何を今更!大切にしてくれていることなど承知の上です!!』
「お前は美しい槍だ。あの国光の最高傑作だ。」
主の目がゆっくりと閉じていく。
『主様?』
「たとえそうでなくとも、愛しているよ。黒丸。」
呼吸が小さくなっていく。壁にもたれかかっていたのが、ズルリと床に落ちる。
『あっ・・・主様!!主様!!?待ってください!!!』
黒丸は主に手を伸ばす。座ったままではいられずに体勢を崩すが、一度も立ったことのない足では床に這いつくばるのが精いっぱいだった。
主の頬に手を当て、するりとなでる。すると主の目は、うっすらと開いた。
「黒丸、おまえのこえがきこえるぞ・・・おまえのかおが、みえるぞ・・・。」
『主様・・・?』
「ああ、うつくしいな・・・おまえ、は・・・。」
そしてまた、深い笑みを浮かべたまま目を閉じる。
死に近づいたからこそ霊的な存在が見えた。
ああ、なんて皮肉な幸せの形だろう。
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黒ノ酢(プロフ) - Qたんさん» 勘違いが好きなんです(o´罒`o) (2018年12月19日 9時) (レス) id: 3f437a82fa (このIDを非表示/違反報告)
Qたん - すごい勘違いですね・・・・・・・・・・・・ (2018年11月17日 0時) (レス) id: 1e4cd3bd39 (このIDを非表示/違反報告)
とむら(プロフ) - 黒ノ酢さん» はい、大丈夫ですよ。寧ろ意見を聞いて下さり嬉しいです。楽しみに更新を待ってますね (2018年8月22日 3時) (レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - とむらさん» 愛されの方向で固めたいと思います!他の方の意見次第では、少し特定の男士によるかもしれませんがよろしいですか?それから、勘違いはまだまだ続く予定です。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - 152339さん» ごめんなさい!考えている大まかな展開ではまだまだ勘違いが加速していくのです。御気に障ったのであれば申し訳ありません。愛されがいいという方もいるので一概には言えませんが、気持ち鶴丸寄りになると思います。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒ノ酢 | 作成日時:2018年6月21日 17時