美しき世界に ページ49
デコボコとした床の名も、そこに転がる灰色の塊の名も、緑の紙の名も知らない。
黒丸の、まだ知らないことばかりがここには満ちている。
一つ一つ指をさしていき、その度に名を教えてもらう。
「地面の事ですか?」「これは石です。」「これは、草。」
鳥、虫、獣、木、空、雨、太陽、山、水
両手でも数えられないほどに沢山の名前が、この世界にはあふれている。
視界を彩るものの名は、黒丸の脳に浸透して色づかせていく。
黒丸に物の名を教えていたのは、秋田と五虎退だけのはずだった。
「これ・・・柿。」
「これは愛染明王だぜ!かっこいいだろ!」
「あれはほんまるです!」
「あそこにいるのが馬だよ!」
いつの間にやら、遊びに誘われた皆が参加していた。
かき、あいぜんみょうおう、ほんまる、うま。
幼子のように繰り返す黒丸。
背が高いはずなのに、なんだか可愛いと皆が思う。
そして今剣は悟った。
黒丸は、誘われなければ遊ばないのではない。遊び方も誘い方も知らなくて、何もできなかっただけなのだ、と。
「・・・黒丸は、あかごのようですねぇ。」
『赤子?』
「なにもしらなくてなにもわからなくて、なにもできない。でもそのぶん、おしえたらきっとだれよりもきゅうしゅうがはやいんだとおもいます。むちではなく「むく」ゆえのあかごです。」
この中で最年長の今剣。
えへへと笑って黒丸の頭を撫でる。それに習って、皆黒丸の頭を撫で始める。
『わっ!』
「ぼくは今剣。黒丸、これからよろしくおねがいします!!」
そしてまた、黒丸に言葉を教える時間が始まる。乱が作った花の冠がいつの間にかみんなの頭に乗っていて、誰かが笑い、そして全員がそれにつられて笑みをこぼした。
『綺麗な花冠ですね・・・。』
「すごいでしょ?僕が作ったんだぁ。」
うっとりと目を細めて黒丸が言う。乱は胸を張った。
全員の頭に乗っている花冠は色とりどりで、可愛らしく美しかった。
甘い香りがふわりと漂い、秋田のお腹がぐうとなる。
その瞬間に皆が笑い、秋田も恥ずかしげに微笑んだ。
「秋田君・・・。」
「え、えへへ・・・お腹減っちゃいました!」
厨当番に軽食をねだるべく、皆で黒丸の手を引いて歩きだす。その頭に花の冠を乗せたまま、本丸の中へと入っていく。
花畑にやんわりと影が落ちて行き、甘やかに花弁が揺れる。
この世界は、この花畑の中はどこまでも優しくて平和だった。
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黒ノ酢(プロフ) - Qたんさん» 勘違いが好きなんです(o´罒`o) (2018年12月19日 9時) (レス) id: 3f437a82fa (このIDを非表示/違反報告)
Qたん - すごい勘違いですね・・・・・・・・・・・・ (2018年11月17日 0時) (レス) id: 1e4cd3bd39 (このIDを非表示/違反報告)
とむら(プロフ) - 黒ノ酢さん» はい、大丈夫ですよ。寧ろ意見を聞いて下さり嬉しいです。楽しみに更新を待ってますね (2018年8月22日 3時) (レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - とむらさん» 愛されの方向で固めたいと思います!他の方の意見次第では、少し特定の男士によるかもしれませんがよろしいですか?それから、勘違いはまだまだ続く予定です。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - 152339さん» ごめんなさい!考えている大まかな展開ではまだまだ勘違いが加速していくのです。御気に障ったのであれば申し訳ありません。愛されがいいという方もいるので一概には言えませんが、気持ち鶴丸寄りになると思います。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒ノ酢 | 作成日時:2018年6月21日 17時