主大好き ページ39
Aは考えていた。
黒丸の口からするりと出てきた、「体で払う」と言う言葉。通常では使わない言い回しがなぜ出てきたのか、嫌でも邪推してしまう。
だけど、黒丸が歩けるようになったことそのものは良い事なのだ。今は素直に喜んでおこう。
・
・
・
翌日のことである。
あくびを噛み殺しながら、布団からのそのそと出て来るA。今日も仕事を始めるか、と気合を入れたところで、見計らったかのように障子の外から声がかかった。
『主様、起きていらっしゃいますか?』
「うぇっ!!?え、あ、起きてます!!」
突然の来訪者に、Aは慌てる。
とりあえず襟元だけ正して、部屋に入るように声をかける。入ってきたのは、やはり彼だった。
『黒丸国光、主様の手伝いに馳せ参じました。』
「手伝い?」
面食らって聞き返すと、黒丸は嬉しそうに首を振った。
『はい!着付け、化粧、髪の手入れ、書類仕事!なんでもご随意にどうぞ!』
黒丸の過去の主には女性もいた。そして最後の主は数学に精通した者だった。彼らが生きている間に黒丸に授けた知識は、偏ってはいるが少ないものではなかった。
「・・・なら、任せてもいいですか?」
『もちろんです!』
主に頼ってもらえた嬉しさで、黒丸は誉桜を散らす。そんなに嬉しいのか、とAは驚いた。
・
・
・
いつもよりも数段綺麗に、服も顔も髪も整えられた。鏡を見ると、なんだか自分が自分じゃないような気さえしてくる。
黒丸はやり切った表情で、でもまだ期待を込めて「どうですか?」と聞いてきた。
「すごくお上手なのですね。」
『お誉めにあずかり光栄です!では次は書類仕事ですね!』
「ちょ、待ってください!」
黒丸を放っておくと、朝餉のことすら忘れて仕事に没頭しそうな予感がする。Aは焦って、黒丸の袖を引っ張り、大広間へと行くのであった。
朝餉はいつも通りの席で食べる。黒丸は、古備前の二振りや燭台切、粟田口の何振りかと話しながら箸を進めている。
Aは上座でそれを眺めながら朝餉を食べる。だからか、Aに向けられる何振りかの視線には気づかなかった。
(雰囲気がいつもと違う?どうしてだ?)
(普段よりも雅なのは喜ばしいが、いったい何故だ?)
(あれ?主さんいつもと化粧が違う?)
いつもよりキッチリと整えられた雰囲気に、違和感を覚える者がいた。
そして、原因に思い当たるのもすぐだった。
(ああ、彼か。)
視線の先に、槍がいた。
152人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒ノ酢(プロフ) - Qたんさん» 勘違いが好きなんです(o´罒`o) (2018年12月19日 9時) (レス) id: 3f437a82fa (このIDを非表示/違反報告)
Qたん - すごい勘違いですね・・・・・・・・・・・・ (2018年11月17日 0時) (レス) id: 1e4cd3bd39 (このIDを非表示/違反報告)
とむら(プロフ) - 黒ノ酢さん» はい、大丈夫ですよ。寧ろ意見を聞いて下さり嬉しいです。楽しみに更新を待ってますね (2018年8月22日 3時) (レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - とむらさん» 愛されの方向で固めたいと思います!他の方の意見次第では、少し特定の男士によるかもしれませんがよろしいですか?それから、勘違いはまだまだ続く予定です。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - 152339さん» ごめんなさい!考えている大まかな展開ではまだまだ勘違いが加速していくのです。御気に障ったのであれば申し訳ありません。愛されがいいという方もいるので一概には言えませんが、気持ち鶴丸寄りになると思います。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:黒ノ酢 | 作成日時:2018年6月21日 17時