主のために ページ37
黒丸が歩く練習をしていた二週間の間、燭台切は最初の言葉通り「おいしい」を教え続けていた。目をキラキラとさせて、もぐもぐと口を動かす彼がとても可愛らしく思える。
食事中に「これもおいしい」と教えて来る刀剣たちもそれなりにいて、黒丸は少しずつ本丸に歓迎されつつあった。
だが、彼の部屋を訪れるまでには至らないらしく、まだ微妙に遠巻きであるのが現状だ。
大包平や秋田とも話し合い、できるだけ彼の近くにいるようにすることが対策だった。それでも出陣や遠征の関係で、三人とも本丸にいない時間帯ができてしまう。そのときは鶴丸が近くにいてくれているらしく、目に見えて彼らの距離は近い。
最近は、鶴丸ばかり黒丸を運ぶ役目を負っている気がする。
何か琴線に触れるところがあったのだろうと思うが、本当のところは当人たちにしかわからない。
一日の終わりが近づき、夕餉の時間となる。
今日は大包平に抱えられて大広間に来た黒丸。心なしか楽しそうに見える。
大包平と燭台切光忠の間に座り、いつも通りに食事をする黒丸。特に口を挟まずともスムーズに食事ができているため、もう手を貸さずとも大丈夫だろう。
二振りは、少しだけ寂しくなる。
食事が終わり、ご馳走様、と黒丸は言う。まだ食べ終わっていないから待っていてくれ、と大包平が言おうとしたその瞬間だった。
黒丸が立ち上がり、自分の食器を片付けにいったのである。
「「!!?」」
驚きで口をパクパクさせる大包平と、目を見開く燭台切。どちらも声を出すことを忘れているようだ。周りも、その光景を三度見程する。
ざわざわと喧騒が広がっていくが、黒丸は大広間に戻ってきて、そのことを意に介さずにAのもとへとまっすぐに行った。
そして、片膝をついて跪く。菜の花色の瞳が悪戯に揺れ、楽しそうに笑う。
『主様。』
呆気にとられていたAに呼びかける黒丸。Aはようやく我に返り、「はいっ!!」と返事をする。
『私めは、鶴丸様のおかげで歩けるようになりました。これからは、ただの無能ではございません。出陣も、遠征も、書類仕事でも家事でもなんでも、どうぞご随意に私めにお命じください。』
「・・・ホェ?」
『・・・ですから、私めをお使いください。今まで受けた恩を、全力で体で返していきましょう!』
主となった人間に、心の底から仕えるのは当然のこと。
黒丸は良い笑顔で言い放った。楽しそうな鶴丸と黒丸以外、誰も状況についていけていなかった。
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黒ノ酢(プロフ) - Qたんさん» 勘違いが好きなんです(o´罒`o) (2018年12月19日 9時) (レス) id: 3f437a82fa (このIDを非表示/違反報告)
Qたん - すごい勘違いですね・・・・・・・・・・・・ (2018年11月17日 0時) (レス) id: 1e4cd3bd39 (このIDを非表示/違反報告)
とむら(プロフ) - 黒ノ酢さん» はい、大丈夫ですよ。寧ろ意見を聞いて下さり嬉しいです。楽しみに更新を待ってますね (2018年8月22日 3時) (レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - とむらさん» 愛されの方向で固めたいと思います!他の方の意見次第では、少し特定の男士によるかもしれませんがよろしいですか?それから、勘違いはまだまだ続く予定です。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - 152339さん» ごめんなさい!考えている大まかな展開ではまだまだ勘違いが加速していくのです。御気に障ったのであれば申し訳ありません。愛されがいいという方もいるので一概には言えませんが、気持ち鶴丸寄りになると思います。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒ノ酢 | 作成日時:2018年6月21日 17時