幻想が焦がす ページ29
正午が近づく。それぞれに内番やら出陣予定やらがあるらしく、三人は名残惜しそうにしつつも部屋から出て行った。
急に静かになった一人きりの部屋に、底知れない心細さを感じる。
前ならこの状態が当たり前で、平気だったはずなのだが。
『静かだなぁ・・・。』
ぽふっと上半身を布団に放り出す。
『一人は、いやだなぁ。』
さして広くない部屋に響く声が、なんだか怖い。自分の声のはずなのに、先ほど三人と話していた声と同じはずなのに、なんだか怖い。
自分以外の誰の声も聞こえないことが、とても怖い。
『ずっと一人だったはずなのになぁ。』
誰も映ることのない視界が、なんだか怖い。人の影がいなくなってしまっただけなのに、ずっといた部屋のはずなのに、なんだか怖い。
自分以外の誰もいない部屋に一人でいることが、とても怖い。
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寂しさは、時に人の心に魔を産み付ける。
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ふいに視界にちらつく、赤い光。
『ひっ・・・』
それは、自らの最期に見た色に似ている。
赤く、黄色く、白くものを包み込んでしまう光。
いずれは全てを焼き尽くす、あの光。
自然と呼吸が早くなる。目を閉じたとて光は消えず、むしろ鮮明に脳内を支配する。
『ぅあっ・・・あ”!!!』
頭がひび割れそうなほどに痛む。
意識が警鐘を鳴らすがすでに手遅れ、いつか体験した体中の熱さとそっくり同じ感覚に、本能が悲鳴を上げる。
『〜〜〜!!!!!』
声にならない腹の底からの叫びは、やはり音になることはなく部屋に充満する。
ずきりと心の臓に痛みが走り、それを合図に視界から色が引く。
荒い呼吸を整えることもできず、急になくなってしまった幻覚に黒丸は混乱する。
今のはなんだ。
いったい今のはなんなんだ。
彼らと離れたくないと思ったのが原因か、誰かと一緒に過ごす喜びを知ってしまったことへの戒めか。
一人でいることが、心に魔を生んだか。
寂しいと思っている自分に気づく。悠久に近い時を一人で過ごしてきたにもかかわらず、誰かといたいと思う自分に気が付く。
だって、あんな賑やかな時間を知らなかった。
主以外の、気安くしゃべれる存在を知らなかった。
一人が怖いことを知らなかった。
自分が今、たった一人であるという事実に気づいて黒丸の体は震えだす。
寂しい。苦しい。怖い。
またあの幻覚を見るのか。自分の最期の瞬間を繰り返すのか。
自然と声が漏れる。
『一人は、いやだなぁ。』
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黒ノ酢(プロフ) - Qたんさん» 勘違いが好きなんです(o´罒`o) (2018年12月19日 9時) (レス) id: 3f437a82fa (このIDを非表示/違反報告)
Qたん - すごい勘違いですね・・・・・・・・・・・・ (2018年11月17日 0時) (レス) id: 1e4cd3bd39 (このIDを非表示/違反報告)
とむら(プロフ) - 黒ノ酢さん» はい、大丈夫ですよ。寧ろ意見を聞いて下さり嬉しいです。楽しみに更新を待ってますね (2018年8月22日 3時) (レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - とむらさん» 愛されの方向で固めたいと思います!他の方の意見次第では、少し特定の男士によるかもしれませんがよろしいですか?それから、勘違いはまだまだ続く予定です。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
黒ノ酢(プロフ) - 152339さん» ごめんなさい!考えている大まかな展開ではまだまだ勘違いが加速していくのです。御気に障ったのであれば申し訳ありません。愛されがいいという方もいるので一概には言えませんが、気持ち鶴丸寄りになると思います。ご意見ありがとうございます! (2018年8月21日 4時) (レス) id: ec0b05428c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒ノ酢 | 作成日時:2018年6月21日 17時