58話 ページ10
お客様とお会いして契約を進める。
｢初めまして。オクタヴィネル寮1年のA・ウェラブルと申します。
噂を聞いてお越しいただいたということですが、あなたの悩みを聞かせていただけますか？｣
できるだけ柔らかい口調で、人の良さそうな笑顔を浮かべながら取引をする。
映画研究会に入って1番良かったと思うのは笑顔かもしれない。
見られていることを意識することで、以前より優しい雰囲気を出すことができるようになった。
相手の目当てはやっぱりテスト対策ノートだ。
テスト明日ですけどね？
｢そうですか。かしこまりました。
えぇ、もちろん。僕はあなたを助けたいのです。｣
慈悲の心でお助けしましょう。
だが、ここで少し悲しそうな顔をする。
｢ですが、大変心苦しいのですが対価を頂かなければその願いを叶えて差し上げることは出来ません……。｣
｢条件は……。｣
甘い言葉で契約をそそのかす。
まるで天使のように。本当に助けたい、力になりたいと訴えかける。
｢ありがとうございます。契約成立ですね。｣
相手が乗ってくればこちらのものだ。そのまま誘い込みサインをさせる。
バカだと心の中で嘲笑いながら。
｢こちらがテスト対策ノートです。テスト、頑張ってくださいね。｣
ユニーク魔法を担保にテスト対策ノートを手に入れた先輩。
金色の契約書を受け取り、笑顔でノートを渡す。
嬉しそうに去っていく先輩を見送り、アズールに連絡をする。
帽子を深く被り、顔を隠して笑う。
あんなに喜んで帰っていった。契約違反になる時はどんな顔をするのだろう？
絶望する？怒り狂う？
簡単に信じる方がバカなんだ。上手い話には裏があるとなぜ疑わない？
｢くっふふ……、はは、あはははは……！｣
楽しくて仕方がない。
今までもこういう契約が大好きで仕方がなかった。
感情を露わにする違反者共が滑稽で面白くて。
これだからアズールとの商売はやめられない。
こんな楽しいこと、1度知ったらもう降りられない。
ひとしきり笑った僕は愉快そうに部屋へ戻る。
｢たっだいまぁ！｣
｢おかえりー。｣
｢お疲れ様でした。A｣
｢上機嫌なところを見ると、上手くいったみたいですね。｣
アズールに契約書を渡し、本物にしてもらってからフロイドとジェイドの2人と戯れる。
｢Aのユニーク魔法って便利だよねぇ。｣
不意にフロイドが呟いた。
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騙される奴が悪いんだよ。
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作者名：黒梦 | 作成日時：2020年10月7日 0時
