四十八話 ページ8
とん、とん、と階段を上がる。
俺は一緒に帰ろうと誘ってくれた十四松とトド松を断り、一足先に家に帰っていた。
そして俺たちの使う部屋に入ると、本棚を引っ掻き回し始める。
たいして読んでも、開いてもいない小説。付箋の張られていない参考書。辺りに散らばる本たちに眼もくれず、目当ての物を探す。
分からない。どれだったっけ、あの表紙。
乱暴に掴んだ本に眼が行った時、俺は動きを止めた。
………あ、った。
――――中学校の、卒業アルバム。
俺は床に座り込んでページを捲る。
俺一人が映ってる写真なんてないけど、兄弟が映ってる写真、友達と映ってる写真。
そして見つけた写真を、指でなぞった。
優しい笑みを浮かべて俺とおそ松兄さんと映る、A――――。
一年生、と書かれたページには、幼げの残る笑顔で映るかつての仲間たち。
それと、俺たち兄弟。
この頃は今よりずっと仲が良くて、俺たちは松野家の七つ子だった。
ぺらっと数ページ捲る。
二年生。
少し大人びた表情のAは、今思えば俺たちと違って女子から好かれていた。
爽やかな笑顔と、優しい態度。真面目な性格なのにどこか子供じみたAは、本当に人気だった。
なのに、写真を追うごとに表情が険しくなって行く。
一つには頬にガーゼ。一つには僅かに眉間に皺を寄せ。そして、顔色が悪くなっていった。
……最後の一枚は、一年生の頃の笑顔と、二年生の頃の笑顔なんかと全然違っている。
もう、そんな笑顔なんかない。傷だらけでこちらを睨んでいる。
「――――嘘だろ。
嘘だと言ってよ、ねえ、A………」
本を両手で抱えて、俺は背中を丸めた。
涙が溢れて止まらなくなり、ただただ声を上げて泣いた。
いつしか、カラ松兄さんはAが変わったのは俺のせいだ、だとか言っていた。
――――違う。
本当は違うんだ。
悪いのは、カラ松兄さんでも、Aでもない。
「――――おれ…、だもんな。
ぜんぶ、おれが、わるかった、んだ…………」
もう謝ったって、許してくれないことくらいわかってる。
むしろ、許されなくていい。だから。
「独りにならないでよ、A……っ」
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れもん - 東郷さんについてこの後兄弟に話したのかとか一松を実は守っていたということに対して兄弟がどのような態度で黒斗に接するのかなど気になる部分は多々あります…書いて欲しかった…。主人公が理不尽な目にあって六つ子が悪役に見えなくもないですが良い作品でした。 (2022年1月21日 22時) (レス) @page33 id: bc2584c695 (このIDを非表示/違反報告)
神野 赤月 - とても泣いてしまいました。いい作品ですね! (2017年8月24日 7時) (レス) id: 1f93e928e5 (このIDを非表示/違反報告)
リュウア(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールの小説で物凄く久しぶりに泣きました。作者様にこのコメントが読んでいただけるか分かりませんが本当に面白く、何かを考えさせられる小説でした。とっても面白かったです。 (2017年5月28日 21時) (レス) id: ef6262a277 (このIDを非表示/違反報告)
暁(プロフ) - 何か主人公が理不尽すぎる気がします (2017年3月30日 21時) (レス) id: be64f1ec17 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - いの近さん» コメントありがとうございます!私も、読者さんと同じ気持ちです!素敵と呼ばせてもらえる主人公と松野兄弟が書けて良かったです!最後までありがとうございました。 (2017年1月22日 11時) (レス) id: 095eb051dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2016年10月23日 18時