六十八話 ページ28
右腕を掴まれて、咄嗟に振り返る。
振り払おうにも掴む手が強く、いらいらして俺は短く舌打ちをした。
「いい加減にしろって――――」
「それはAでしょ?」
急に低くなった十四松兄さんの声に、背筋が凍った。
兄さんがこんな声を出すなんて思わず、言葉に詰まってしまう。
視線を下に落として、言葉を濁す。兄さんは俺の両手を掴むと、俯いたままの俺の顔を覗き込んで来た。
「あのね、A。
僕たちがAを心配するのは、今更ってわけじゃないんだよ」
じゃあ、なんだよ。と言いたくなったが、ぐっと飲みこむ。
「僕たちはね、兄弟なんだよ。
兄弟喧嘩してても、仲が歪になってても。
家族なんだから、心配するのは当然だよ」
ね、と微笑んだ十四松兄さんに、俺は顔を上げた。
×××
久し振りに、僕はAの笑顔を見た。
きっと、分かってくれた。僕はそう思った。
「…A?」
「もう、聞き飽きたから」
そう言ったAは僕から視線を外し、足早に階段の方へ向かう。
ふと、軽い音が響き、Aの動きがぴたりと止まった。
振り向いたAの顔は酷く嫌そうで、カラ松兄さんに捕まれた腕を鬱陶しそうに睨んだ。
「――――……触んじゃねェよ、うぜえな。
いい加減に――――」
パアンという音に、僕たちは眼を見張った。
左頬をほんのり赤くしたAは、暫く茫然としていたけど、状況を呑み込むと顔をきっと歪ませた。
「離せ……離せよッ!!」
乱暴に兄さんの腕を振り払うと、やり返すように右手をカラ松兄さんに向かって振り被った。
「――――殴れないんだろう?」
ぴたりと止まったAの動きは、眼を見開いたまま動かない。
それからくしゃりと顔を歪めると、振り上げた右腕を下ろして俯いた。
心配そうにAの顔を覗き込むカラ松兄さん。
「…A」
Aに向かって腕を伸ばしたカラ松兄さんの手は、力強くAに弾かれた。
「触んな」
そう言ってAは階段を駆け下りて外に飛び出してしまった。
――――外は、まだ雨が降っていた。
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れもん - 東郷さんについてこの後兄弟に話したのかとか一松を実は守っていたということに対して兄弟がどのような態度で黒斗に接するのかなど気になる部分は多々あります…書いて欲しかった…。主人公が理不尽な目にあって六つ子が悪役に見えなくもないですが良い作品でした。 (2022年1月21日 22時) (レス) @page33 id: bc2584c695 (このIDを非表示/違反報告)
神野 赤月 - とても泣いてしまいました。いい作品ですね! (2017年8月24日 7時) (レス) id: 1f93e928e5 (このIDを非表示/違反報告)
リュウア(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールの小説で物凄く久しぶりに泣きました。作者様にこのコメントが読んでいただけるか分かりませんが本当に面白く、何かを考えさせられる小説でした。とっても面白かったです。 (2017年5月28日 21時) (レス) id: ef6262a277 (このIDを非表示/違反報告)
暁(プロフ) - 何か主人公が理不尽すぎる気がします (2017年3月30日 21時) (レス) id: be64f1ec17 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - いの近さん» コメントありがとうございます!私も、読者さんと同じ気持ちです!素敵と呼ばせてもらえる主人公と松野兄弟が書けて良かったです!最後までありがとうございました。 (2017年1月22日 11時) (レス) id: 095eb051dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2016年10月23日 18時