六十六話 ページ26
「カラ松!」
家に戻ると、玄関で心配そうな表情で佇むチョロ松がいた。
俺の背中に凭れ掛かっているAを見て、血相変えたチョロ松は大声でトド松にタオルを持って来るよう指示した。
それから一松に救急箱を持って来いと伝える。すると、パタパタと足音を響かせてトド松がタオルを持ってきた。
「カラ松兄さん、大丈夫!?」
「ああ、安心しろ、トド松。それよりも、Aを…」
顔を伏せってしまっているA。トド松は慌ててタオルでAを包んだ。
十四松が襖を開け放って、Aを抱き上げる。
俺はトド松から受け取ったタオルでできるだけ水を拭き取った。
「十四松、お前はAを部屋まで運んでくれ」
あい! と返事した十四松は軽々しくAを抱えると、階段を上って行った。一松も追いかけていく。
「…おそ松」
居間で一人、座って俯くおそ松に声を掛けた。
沈んだ表情のまま、何も答えないおそ松は時々視線を上げては再び床に目を落とす。
ふうと重く溜息を吐いて、しびれを切らした俺はおそ松に近付く。
「いつまでいじけてるんだ」
「……別に」
今度は顔を上げ、俺を真っ直ぐ見つめたと思ったら、急に立ち上がった。
いつもより覇気のない眼で見つめられ、どこか違和感を感じる。
「なにかあるのなら、今言っておいた方がいいぞ」俺がそう言うと、おそ松は一瞬の間を開けた。
小さく、何かを呟く。俺は聞き取れず、首を捻るとおそ松は歯ぎしりをしてきっと俺を睨み上げた。
「俺のせいであいつが大怪我したんだぞ! それに大喧嘩だってした! それで何事もない顔して、平然と顔を合わせられる訳、ないだろ!」
おそ松の言葉に、固唾を飲んだ。
眼前で荒く呼吸を繰り返すおそ松に、何も言い返せなくなる。
「……そう、だよな」
「あ?」
俺は右手を顔に当て、再び溜息を吐いた。
「でも、Aがそこまで気にするような奴じゃないって、お前だって分かってるだろ?
Aは優しい奴だ。言葉で突き放しても、本当は気に掛けてくれる。やっと気づいたんだ。
行こう、おそ松。Aと分かり合うチャンスなんだ」
今にも泣きそうなおそ松の肩に手を当て、そう問いかけた。
口許を下手に歪ませて、おそ松は小さく頷いた。
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れもん - 東郷さんについてこの後兄弟に話したのかとか一松を実は守っていたということに対して兄弟がどのような態度で黒斗に接するのかなど気になる部分は多々あります…書いて欲しかった…。主人公が理不尽な目にあって六つ子が悪役に見えなくもないですが良い作品でした。 (2022年1月21日 22時) (レス) @page33 id: bc2584c695 (このIDを非表示/違反報告)
神野 赤月 - とても泣いてしまいました。いい作品ですね! (2017年8月24日 7時) (レス) id: 1f93e928e5 (このIDを非表示/違反報告)
リュウア(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールの小説で物凄く久しぶりに泣きました。作者様にこのコメントが読んでいただけるか分かりませんが本当に面白く、何かを考えさせられる小説でした。とっても面白かったです。 (2017年5月28日 21時) (レス) id: ef6262a277 (このIDを非表示/違反報告)
暁(プロフ) - 何か主人公が理不尽すぎる気がします (2017年3月30日 21時) (レス) id: be64f1ec17 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - いの近さん» コメントありがとうございます!私も、読者さんと同じ気持ちです!素敵と呼ばせてもらえる主人公と松野兄弟が書けて良かったです!最後までありがとうございました。 (2017年1月22日 11時) (レス) id: 095eb051dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2016年10月23日 18時