五十二話 ページ12
北軍内で起こった下剋上は終わり、再び南軍と北軍の静かな睨み合いが始まった。
あの下剋上以来、北軍はAを中心にまとまりつつあり、そのおかげかところ構わず喧嘩を吹っかけられなくなっていた。
でも、そんなことがあっても俺たちとAの間にできた亀裂は治っていない。
まるで広がって行くかのように、俺たちとAの溝は埋まらない。
たまたま廊下ですれ違っても、Aは俺にさえ視線を向けてくれない。寧ろ、わざと避けてる。
………分かってる。
Aが俺に気遣ってくれてることくらい。
もし南軍の俺と、北軍リーダーであるAが一緒にいて、仲良く話してるなんてところを見られたら、おそ松兄さんも、Aも無事ではいられない。
今度こそ、大きい下剋上が起こる。
Aはそれを案じているに違いない。
でも、それ以前に。
俺は寂しかった。
昔は優しいAが、今では拳を振るって誰かを傷つけてる。
幼い頃、俺がよく手を引いてやったあの手は、今では人を傷つけるための凶器になっている。
この上ない、虚無感とかいうのが、俺を支配していた。
「――――一松兄さん」
「っあ…、十四松」
ぼうっとしていた俺に、十四松が声を掛けた。
不意に呼びかけられたから身体が固まった。十四松が不思議そうに俺を見ている。
「どうしたの、一松兄さん。今日一日、ずーっとそうだけど」
流石十四松、と言う所か。
人の事をよく見てる。
俺はマスクに手を掛けて下にずらすと、ぎこちなく笑みを浮かべた。
「だいじょーぶ。ちょっと考え事してただけ」
長い袖を振り回した十四松は、お気楽な顔をしていたがやがて神妙な顔になる。
「嘘でしょ、一松兄さん」
「……え」
驚いて視線を上に向ける。俺の眼を真っ直ぐに見つめてくる十四松。俺は慌てて眼を逸らした。
「そんな訳ないじゃん」そう返しても、俺に向けられた視線は消えない。
それを振り払うみたいに俺は立ち上がって、十四松に振り返る。
「十四松。今日はAを探そう。訊きたいことがある」
十四松はうんと言って頷いた。俺は教科書を手に教室移動の為に歩きだした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 212人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れもん - 東郷さんについてこの後兄弟に話したのかとか一松を実は守っていたということに対して兄弟がどのような態度で黒斗に接するのかなど気になる部分は多々あります…書いて欲しかった…。主人公が理不尽な目にあって六つ子が悪役に見えなくもないですが良い作品でした。 (2022年1月21日 22時) (
レス) @page33 id: bc2584c695 (このIDを非表示/違反報告)
神野 赤月 - とても泣いてしまいました。いい作品ですね！ (2017年8月24日 7時) (レス) id: 1f93e928e5 (このIDを非表示/違反報告)
リュウア(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールの小説で物凄く久しぶりに泣きました。作者様にこのコメントが読んでいただけるか分かりませんが本当に面白く、何かを考えさせられる小説でした。とっても面白かったです。 (2017年5月28日 21時) (レス) id: ef6262a277 (このIDを非表示/違反報告)
暁(プロフ) - 何か主人公が理不尽すぎる気がします (2017年3月30日 21時) (レス) id: be64f1ec17 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - いの近さん» コメントありがとうございます!私も、読者さんと同じ気持ちです!素敵と呼ばせてもらえる主人公と松野兄弟が書けて良かったです!最後までありがとうございました。 (2017年1月22日 11時) (レス) id: 095eb051dc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ルアルア | 作成日時：2016年10月23日 18時
