六十話 ページ20
「――――A、お前がこんなことをするなんて思わなかったぞ」
家の居間。
俺は父さんと母さんを前に座っている。
廊下には一松兄さんとトド松兄さんが盗み聞きしているのか、影がちらつき、たまに物音が聞こえる。
「……別に。なんだっていいでしょ」
俺がそう言うと、母さんは顔を歪め、父さんに至っては眉間に皺を寄せてちゃぶ台を掌で叩いた。
「A! …私たちはお前だけはと思って、小さい頃からおそ松たちとは違って教育をしてきたが、どうしてあんなことをしたんだ」
「別になんだっていいだろ。早く戻っていい? 俺、やらなきゃいけないことがあるし」
乱暴に居間の襖を開けて、大きい音を立てて閉めた。
「…A」
一松兄さんが俺を心配そうに窺っていた。
ふうと短く息を吐いてから、口元に笑みを浮かべると兄さんから視線を外し、中空を眺めながら問う。
「怪我、大丈夫?」
「…うん。でも、ごめん、A。俺たちが――――」
「そう。ならよかった。俺、もう行くよ」
そう言って二階に上がる。
後ろで兄さんが何か言っていたけど、返答をせず自分の部屋に入った。
ポケットから携帯を取り出し、来ていたメッセージを確かめる。
「…ああ、……くそっ…」
ベッドに身を投げ、歯を食いしばった。
――――今日、相手を殴った拳に、なんだか違和感を感じる。
…人を殴ったのなんて初めてで、気持ちが悪い。
兄さんたちはいつもこんな事をやっているのかと思うと、なんだかおかしな気分になる。
俺は拳を作り壁を殴ると、目を伏せるようにして腕を顔に押し付けた。
×××
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れもん - 東郷さんについてこの後兄弟に話したのかとか一松を実は守っていたということに対して兄弟がどのような態度で黒斗に接するのかなど気になる部分は多々あります…書いて欲しかった…。主人公が理不尽な目にあって六つ子が悪役に見えなくもないですが良い作品でした。 (2022年1月21日 22時) (レス) @page33 id: bc2584c695 (このIDを非表示/違反報告)
神野 赤月 - とても泣いてしまいました。いい作品ですね! (2017年8月24日 7時) (レス) id: 1f93e928e5 (このIDを非表示/違反報告)
リュウア(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールの小説で物凄く久しぶりに泣きました。作者様にこのコメントが読んでいただけるか分かりませんが本当に面白く、何かを考えさせられる小説でした。とっても面白かったです。 (2017年5月28日 21時) (レス) id: ef6262a277 (このIDを非表示/違反報告)
暁(プロフ) - 何か主人公が理不尽すぎる気がします (2017年3月30日 21時) (レス) id: be64f1ec17 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - いの近さん» コメントありがとうございます!私も、読者さんと同じ気持ちです!素敵と呼ばせてもらえる主人公と松野兄弟が書けて良かったです!最後までありがとうございました。 (2017年1月22日 11時) (レス) id: 095eb051dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルアルア | 作成日時:2016年10月23日 18時