短編集【anm】 (ページ48)

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「おぉ〜、朝からお熱いですねぇ」

振り返るとニコニコと笑うあらきさんが居た。

「「！！？」」

「あ、あらきっ！？」
「あれ、時間より早いですね…！」
「そりゃあ、俺はちゃんと時間に余裕を持って行動してますから」

動揺する私となるせの事なんて気にしていないのか、メイクブースの入り口にもたれかかったあらきさんは笑顔のまま話を続ける。

「それに、メイクの一番手がなるせさんだなんてちゃんと来てるか心配だったので少し早めに来ましたけど…野暮でしたね」

出直します、と笑うあらきさんを慌てて引き留める。

「わわっ！あらきさん、待って下さい！もうなるせのメイク終わってますから！ここ座って下さい！ほら、なるせ！そこ退いて！」

なるせにかけたクロスを引っぺがして椅子から退かす。

「え〜、俺まだ Aと喋ってたぁい」
「はい、退いた退いた！」

シッシ、と追い払うと唇を尖らせて荷物置き用のパイプ椅子に座るなるせ。

「も〜！邪魔しないの！」
「まぁまぁ、良いじゃぁないっスか Aさん〜！積もる話もありますし久々に3人で話しましょうよ〜」
「ほらぁ、あらきさんもそう言ってるじゃん！」
「も〜！あんまりうるさくしないでよ？」

声の大きくて騒がしい2人が揃って、静かにするなんて到底無理で…
あらきさんのメイクが終わる頃にはエンジン全開の2人が完成していた…

「はぁ、疲れた…」
「 Aさん、ありがとうございました〜！」
「ありがとね〜」
「はいは〜い、2人とも頑張ってね〜」
「「はぁい」」

メイクブースから2人を見送って、次のゲストの到着前に一度道具の整理をしようと出したままのパレットを片付けていると、なるせが戻って来た。

「あれ、どーしたの？」
「ん？忘れ物した」
「もー！何忘れたの？」

鏡前や彼が座っていた椅子を見るも何も落ちていない。しゃがみ込んでメイク台の下を覗いてもやっぱり何もない。

「え〜？なんもないよ？」

しゃがみ込んだままなるせの方を見上げると、すぐ近くに彼の顔があって、驚く間もなく唇が触れる。

「…成功のおまじない、ちゃんと貰うの忘れたから」
「〜っ！！？」

彼の瞼のラメがこぼれ落ちそうな位キラキラと輝いていた。

「ははっ、真っ赤でかわいい」
「〜〜っばか！！」

ニヤリと笑ったなるせが座り込んだままの私の髪を撫でてメイクブースを出ていく。

「じゃ、俺の事ちゃんと見ててよね？」

普段、家ではふにゃふにゃな私の彼があんなにかっこいいだなんて知らないっ！！