短編集【anm】 (ページ47)

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後輩ちゃんの方のチェックを済ませてなるせの元へと戻る。

「なるせ、バタバタしててごめんね」
「いいよ〜、…後輩さんはどうなの？」
「どうって？」
「センスとか色々」
「良い子だよ、素直でまっすぐで努力家」
「なんか Aに似てるよね」

さっきブースへ来た後輩ちゃんの姿を見てそういっているのだろうか、でも私はあんなにキラキラしていない。

「そう？まぁ、私が育てたんだもん」

否定するのも彼女に悪いから冗談っぽくそう言って、彼に問い掛ける。

「…若い子にメイクして欲しかった？」

鏡越しに目が合ったなるせは不思議そうな顔をして、私の目を見たまま喋る。

「いいや？俺は Aに1番にメイクして貰いたくて早起きしたんですけど？」

出番順にメイクしていくのが通常の流れのところを何故かなるせが1番手だったのはそういう事だったのか…。

「…嬉しい事言ってくれるじゃん」
「彼氏の独占欲ってヤツ。…久々のライブだしさ、たまにはいいでしょ？」
「も〜」
「だって、最後の方っていつもバタバタすんじゃん？最初の方がちゃんと Aの事見れるでしょ？」
「私の事なんて見てどうするの？」
「 Aの真剣な仕事モードなんてなかなか見れないからね、よく見とかないと…！」
「そんな事より目の前のライブに集中してください…！」

メイクを終えてなるせの髪をゆるく巻いてセットしていく。
ライブの時はいつも可愛い髪型にされがちななるせ。今回も可愛さは残しつつ久々のステージがより華やかになるようにヘアセットを施す。
いつも触れている彼の髪だ。
私が1番彼の魅力を魅き出せる自信がある。

「…久々のライブは緊張する？」
「めっっっちゃ緊張してる」
「そうは見えないけどねぇ」
「 Aがメイクしてくれるからね、今はちょっと落ち着いてる。俺、 Aに髪触られるの好きよ？」
「…そーなんだ」

そんな風に言われてにやけるのを我慢して、彼の髪に細いシフォンのリボンを結んで完成。
顔を上げるとまた鏡越しになるせと目が合って彼が笑う。

「はい、完成…！頑張ってね？」
「うん。俺、頑張るから特等席から観てて？」
「うん、ちゃんと観てるよ」

メイクが崩れたらいけないから、彼の髪を優しく手櫛で梳いて彼の髪にキスをした。

「成功のおまじない」
「え〜、こっちにしてよ」

拗ねた顔で唇を指差す彼に「メイクが落ちるからだめ」と言いかけた時、背後からよく響く声が聞こえた。