短編集【anm】 (ページ46)

今日:15 hit、昨日:54 hit、合計:62,356 hit

開演のベルが鳴る前に(nrs)＊ページ46

【リクエスト】
🍸のメイクとヘアメイクを担当する彼女

大切な仕事道具たちを並べて仕事の準備は完了
あとはゲストを迎えるだけだ。

「 A先輩、こっちも準備出来ました！」
「うん、これがそっちのメイク順のリストね」
「はい！」
「じゃあ、一緒に頑張ろうね」
「頑張ります！」

パーテーションで隔てられた隣のブースへと気合十分で戻って行った後輩ちゃんは今日がライブ現場で初めて1人でメイクを担当する独り立ちの日だ。

私がこの仕事をはじめて何年経っただろうか？
長い様で短い様な気もする。
私が初めて現場のアシスタントに就いたのも独り立ちしたのも、このXYZのライブだった。

そんな少しだけ懐かしい事を思い出しながら、新しい風に感化されて気合い十分だ。

「よしっ！頑張るぞ！」

・

「…おはよぉ」

メイクスタートの時間より少し前
欠伸をしながらメイクルームに現れたのはなるせだった。

「おはよう、ちゃんと起きれたんだ」

席に着いた彼にクロスをかけながら、今朝ベッドの中でまだ起きない…と唸っていた彼を思い出して笑う。

「うん、 Aが行ったあとちゃんと起きたよ」
「えらいね」
「でしょう？」

なるせと私は恋人同士でこのXYZの現場で出会った。
今は同棲中で今朝は彼を叩き起こしてから、まだソファで二度寝してしまいそうな彼を残してひと足先に現場入りした。

コロナでライブが悉く中止や延期になって、彼がステージに立つことはないまま数年が過ぎて…
今日は彼の久々の舞台で彼のファンも、そして彼自身も心待ちにしていた日だ。
勿論、私の念願でもあった。
彼からライブに出ると聞いた時からスケジュールを空けてメイク係として声が掛かるのを待っていた。

恋人になってから彼のメイクをするのははじめてで、少し緊張しながら彼のもちもちのお肌にスチームをあてる。

「…ライブ何年振り？」
「えっと…2…年？いや、3年か？」
「そんなに経ったんだ」
「ほんとにねぇ」

スキンケアを済ませてベースを丁寧に仕上げて行く。
鏡越しに目が合ったなるせが笑う。

「なに？」
「いやぁ、はじめて会った時は新人アシスタントだった Aが今やもう大人気のメイクさんだもんねぇ」
「やめてよ」
「本当の事じゃん」
「あんまり笑うとこの後のアイメイクがビジュアル系みたいになっちゃいますよ〜？」
「やめてよ…！」

そんな冗談を交えてなるせのメイクを進めながら時折後輩ちゃんのブースに呼ばれてチェックをしたり、やる事が目白押しだ。