短編集【anm】 (ページ5)

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▼翌日談(ark) ページ5

玄関のドアが開き、パタパタと彼女の足音がリビングへとやってくる。

「ただいまっ！」
「おかえりなさい、なんかうれしそうですね」

テストで百点を取った子供が親に褒められたくて急いで帰ってきたみたいに彼女の全身から嬉しいオーラと褒めてオーラが滲み出ている。

「あらきさん！生チョコ大好評でした！」
「お〜！よかったっスね」
「特にディレクターさんがとても褒めてくれました！『隠し味の塩が効いてるね！』って！」

今、Aと仕事をしているディレクターは完全A狙いの男だ。
彼女はあまり理解していないようだが彼女と接する時だけ露骨に上機嫌になるし、毎回サシで飯に誘われている。
Aには誘いはちゃんと断って気を付けるように、Aのマネージャーにも注意してAを見ているように頼んで、各所に釘は刺しているがディレクターは毎度めげないので骨が折れる。

そんなヤツにAの手の込んだ手作りお菓子をやる訳にはいかねぇ、と実は昨日もやきもきしていたので俺監修の生チョコを食べて喜んでいるとは憐れなディレクターだ。

「そうですか」
「だから、『彼氏がお料理上手で一緒に作ってくれたんですよ〜！』って自慢しておきました！」
「っはっは！！それ、ディレクターに言ったんすか？」
「…？はい！」
「んふふ、流石A！そりゃ傑作っスね！」

好意を寄せる女の手作り菓子がまさかの彼氏との合作だなんて本当に傑作だ。
絶望するディレクターの顔が目に浮かぶ。

ちょっと焦げたブラウニーだってなんだってAがひとりで一生懸命作った手作りバレンタインは彼氏である俺の特権なのだ。
誰にも渡すつもりはない。