短編集【anm】 (ページ28)

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3月8日、勘違い変化形(nrs)＊ページ28

「せ、世話になってる友達に花を贈りたくて…」

店先に置かれた黄色のふわふわとした花に惹かれて入った普段行く事なんてない駅ナカの花屋
そわそわと落ち着きのない俺は店員に話しかけられた時に平常心を装ってそう言った。

「素敵ですね。では、どのようなイメージでおつくりしましょうか？」
「イメージ…？」
「はい、好きなお色やお客様から見た相手の方のイメージなどでおつくりしますよ」
「あ〜、そうですねぇ」

微笑む店員の視線を躱すように辺りを見回して先程見た黄色い花を指差す。

「あれ、あれがかわいいなぁと思ったんですけど」
「ミモザですね。花言葉は感謝・友情なのでぴったりだと思いますよ」
「へぇ、そうなんですね〜」
「それに、ミモザは流通期間が短いので貴重なんですよ」

ふわふわで小さな花は笑った彼女に似ている気がした。

「これにします」

・

似つかわしくない花束を持って、3月の寒空の下を歩く。
待ち合わせ場所には鼻を少し赤くしたAが居た。

「あ、なるせくん！」

俺を見つけた彼女の表情がぱあっと明るくなる。

「ごめん、待った？」
「ううん、さっき来たところ」

ニコニコと嬉しそうに笑う彼女の視線が俺が持っている半透明の袋の方に行く。
再び彼女と目が合って、それはなぁに？と言いたげな無邪気な視線

花束を買ったのはいいものの渡すタイミングなんて考えていなかった。
見つかってしまった以上、今渡すのがベストなのだろう。

「…A、これ。あげる」
「なぁに？」
「いつもありがと」
「…嬉しい」

ミモザの黄色を基調とした花束はやっぱり彼女にぴったりでこれにして正解だったなぁと思った。

「ミモザ？」
「うん、Aっぽいなぁと思って。変かな？」
「ううん、嬉しい」

嬉しそうにミモザを見つめていた彼女の瞳が俺を射抜く。

「…なるせくん、あのさ…ミモザの花言葉って知ってる？」
「さっき店員さんが教えてくれたよ」
「…そっか」

ふにゃりと恥ずかしそうに笑う彼女
次第に赤くなるAの顔

「え、待って…」
「ん？」
「なんか俺の聞いた意味とAが知ってる花言葉、違うかもしれんから…一応聞いてもいい？」

先程とは打って変わって、一滴の絶望を落とした様な色を瞳に写した彼女が小さな声でぽつりと呟く。

「…秘密の恋、真実の愛」

「やっぱり…」

俺が友達に花を贈るって言ったからだ。
だから恋に関する花言葉は言われなかったんだ。