短編集【anm】 (ページ26)

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水族館デート(nrs)＊ページ26

「なーるせくーん！起きてくださーい！！」

そう言ってAが部屋に乗り込んできたのは朝早くの事だった。

「ねぇ、なるせ！」
「ん〜、……なにぃ？」

朝から元気いっぱいなAの声に瞼を擦りながら目を開けるとベッドに頬杖を突いてこちらを見つめている彼女と目が合う。

「おはよぉ」
「…はよ」
「お出掛けしませんか？」
「…いいけどぉ」

どこいくの、と寝起きの掠れた声で彼女に問い掛けるとニンマリと笑ってAは言った。

「水族館！！シャチ観に行こう！」
「…すいぞくかん？」

・

「シャチの居る水族館って国内に2つしか無いんだって！」

助手席の彼女はTVの特集で観たらしい情報を自慢げに披露している。

「へぇ〜、そうなんだ」
「そして今日はシャチコーデです！」

赤信号のタイミングでチラリと彼女の服装を確認すると黒いワンピースに白のボレロ
確かにいわれてみればシャチコーデだ。

「…俺さぁ、昔シャチになりたいっていうスーパー頭悪い理由で白と黒の服ばっか着てた時期があるんだけど、なんかそれ思い出したわ」
「なんか、なるせっぽいね」
「…Aも思考が一緒だって言ってんだよ」
「え〜、そういう事〜？」

目を細めて呆れた風に笑う俺に向かって、へらりと笑うA
彼女の柔らかな髪を窓から吹き込んだ風が揺らした。

・

無事水族館に着き、薄暗い館内をのんびりと歩き回る。
平日だからか人は疎で気になる水槽をゆっくりと眺めることができた。

「なんかさ水族館とか久々じゃね？」
「だねぇ〜…もしかするとさ、付き合う前のデート振りじゃない？」
「…そうかも」

彼女の一言で懐かしくて甘酸っぱい記憶がよみがえる。
確かに付き合う前の何回目かのデートで水族館に行った。
場所はここでは無かったけれど、ドキドキしながら初めて彼女と手を繋いで館内を歩き回って、その帰りに告白をした。

「あの時さ、初めて手を繋いだでしょう？」
「…うん、暗いし人が多かったからはぐれないように〜とか言って繋いだね」
「そうそう！私それで緊張しちゃってあの時何見てたか全然覚えてないんだよねぇ」
「え、まじ？」
「ごめんね？」
「いや、ごめん俺も全然覚えてない…！」
「ほんと？」

薄暗い館内でぼんやりと明るい水槽を眺めるAの横顔があまりにも綺麗で、彼女の横顔ばかり眺めていたから…なんて小っ恥ずかしい事は流石に言えなかった。

「ほんと。俺も緊張してたもん」
「じゃあ一緒だね、あの時の分まで今日は楽しもうね？」
「うん、そうしよ」