短編集【anm】 (ページ21)

今日:8 hit、昨日:54 hit、合計:62,349 hit

Donut(nrs) ページ21

「うわ、うまそ〜」

2人で珍しく観ていたバライティ番組の間に流れた某ドーナツ屋さんの新作CM
それを観た彼がそう呟いていたのを思い出して、帰り道に見つけた店舗の前で足が止まり気付けばそのまま店内へと吸い込まれていた。

・

白いトレーを手にショーケースに並んだドーナツを眺める。
目を惹くカラフルなものと昔から変わらないシンプルなものたちがひしめき合っている。

(ドーナツなんて久々かも…)

彼は何が好きだったけ？
とりあえずCMで観た新作をひとつずつトレーにのせる。
ここに来たらポンデリングも外せないよね…

あれもこれもと迷っていると気付いた時にはトレーは満杯で…

・

「で、ふたり分なのにこんなに買ってきちゃったワケね」

テーブルの上に置かれたドーナツの箱を挟んで反対側に座った彼がそれを面白がるように笑う。

「…はい」
「Aは優しいよね」
「なんで？」

なんの脈絡もない彼の言葉に思わず首を傾げるとドーナツの箱を開けて嬉しそうに中身を覗きながら彼は話を続ける。

「俺がこの間『うまそ〜』って言ったから買って来てくれたんでしょ？」
「…そう、だけど」
「やっぱ優しいわ、大好き」
「現金だねぇ」
「もー、そういう意味じゃないって！」

私が茶化すと彼はまたドーナツの箱を覗き込んで話題を変える。

「で、Aはどれ食べるの？」
「うーん、なるせが先に選んでいいよ」
「え、いいの？じゃあこれ」

あ、私も気になっていた新作…

「…じゃなくて、ポンデ」

ポンデも久々に食べたかったかも…

「ふはっ、やっぱ全部半分こにしねぇ？」
「？うん、いいよ」

小さめのまな板とナイフを持って来て新作ドーナツとポンデリングを半分にしていると、頬杖をついてそれを見ていた彼と目が合った。

「なに？」
「いーや？Aは全部顔に出てて可愛いな〜と思って」
「え…、そんなことない」
「いや、さっき俺が選んだ新作もポンデも『私も食べたい…』って顔してたもん」

悪戯っ子みたいに笑う彼の顔をみて、思わず顔が熱くなる。

「え、ほんと！？…うわ、恥ずかしっ」

「え〜？俺はお前のそういうところが好きだけど…？」

「…！？」

どうしてこうもさらりと恥ずかしい台詞が出てくるのか、恥ずかしさと驚きで何も言えずにいる私の顔を見て目を細めて笑う彼は本当に狡い。

「…あ、飲みもん無いじゃん。何飲む？牛乳〜？」
「え、あ…うん！牛乳がいい」
「はいよ〜」

そう言いながら冷蔵庫を開けた彼の耳が赤くなっている事に気が付いて、私はとても愛おしい気持ちで2人分のカップに牛乳を注ぐ彼の後ろ姿を眺めていた。