短編集【anm】 (ページ16)

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仲直りの味はあまく、たおやかに(mey) ページ16

めいちゃんと喧嘩をした。

喧嘩の原因は本当に他愛もない事で、冷静になれば許せたはずなのに…と昨晩の自分の行動を反省しながら通勤電車に揺られている。

(帰りになにか仲直りの品を買って帰ろう…)

大人になると素直に謝る事が難しくなる。
簡単に言えばプライドみたいなものが邪魔をする。
そういう時に仲直りの品とは大変優秀なもので相手の好きな物を買っていく事で謝罪のハードルが一気に低くなるような気がするのだ。
ごめんね、と一言謝ってその後に「一緒に食べよう」と言えば簡単に仲直りができる。

・

仕事中もずっと、何にするか悩んで仲直りの品は二人が好きなケーキ屋さんのプリンにした。
小振りなケーキ箱を抱えて乗る電車はどんどんと家へ近付いて行く。

(帰ったらちゃんと私から「ごめんね」って言おう)

・

帰宅するとめいちゃんは作業部屋に籠っているようでリビングには自由に遊ぶ猫達しか居なかった。

とりあえずプリンを仕舞おうと冷蔵庫を開けると、冷蔵庫の中段に鎮座する自分が手に持っているのと同じサイズのケーキ箱

「え…？」

恐る恐る中身を確認するとプリンがふたつ
しかも、同じお店の同じヤツ

「えぇ…、どうしよ」

口からは困惑の言葉が出るのに、内心喧嘩をしていても思考回路は同じなんだ…とはしゃぐ私が居る。

「あ…おかえり…」
「ッ！！？」

リビングの扉を半分開けて気不味そうにこちらの様子を伺うめいちゃん
突然の彼の登場に跳ね上がる心臓
胸に当てて冷静を装う。

「た、ただいま…」
「A、あのさ…昨日は…」

(昨日はごめんねって言わなくちゃいけないのに…)

しおらしく少し不安気な表情のめいちゃん
彼は優しいから今回も私より先にごめんねを言うのだろう。
なのに、なんで私は素直になれないんだろう。

(私って可愛くないなぁ…)

自分でもよく分からないが感情がぐちゃぐちゃだ。
鼻の奥がツンとして堪える間もなく涙が溢れ出す。

「え゛っ！？」

感情が追い付かず突然涙を流す私を見て、慌てふためく彼
駆け寄って来てパーカーの袖口で涙を拭ってくれた。
余程動揺しているのかその手は少し乱暴で…
でも、されるがまま彼に涙を拭ってもらう。