オールドファッション ページ7
「おい！お前！！」
「…私、でしょうか。」
デロデロに酔った男が柏木に話しかける。
「お前、楽器やってんだろ！ここで見せろよ！」
少し呂律が回っていないものの、その言葉をしっかりと言い放った。
楽器、というが、確かにここの店にはピアノがあるが、いつも違う人が弾いている。
ちらりと柏木を見ると、一瞬だけ凍りついた様な顔をした。
しかしそれは一瞬の事で元の笑みに戻っていた。
…がそれはとても歪な物だった。
「大変申し訳ありません。現在は演奏者が居なくなってしまって。」
苦しげに絞り出された声はとても辛そうで、そして悲しげに揺らいでいた。
「嘘つくな！！お前がやってただろ！！」
中々引き下がらない上に大声で喚き立てる。
「…人をお間違いになられているのではないでしょうか。」
ぐっと柏木の喉が鳴った。
「うるせぇ！ごちゃごちゃ言ってねぇで早くやれよ！！」
バキッ
大声と生々しい鈍い音。
鈍い音は柏木の頬から鳴ったものだと、気づくのにはそんなに時間はいらなかった。
「…っ」
痛々しく顔を歪めながらも、すっと歪な笑顔を浮かべた。
「大分、酔っておられますね。今日はお帰りになった方が良いのではないでしょうか。」
「てめぇ…」
低く男が苛立ちによって唸る。
黙っていられなくなった俺はとうとう口を挟んでしまった。
「おい、手前は何がしてぇんだよ。バーテンダー殴って、大声で喚き散らして、周りに迷惑かけやがって。」
「お前に関係ねえだろ！すっこんでろよ！」
男から繰り出された拳を掴んで捻りあげる。
「命だけは勘弁してやる…とっとと失せやがれ」
そう言うと、男は顔を青ざめさせ、金を払い何処かへ行ってしまった。
柏木は、ふぅて息を吐くと、膝から崩れ落ちてしまった。
気を張っていたのだろう。
細い腕でなんとか体を支えている。
震える柏木に手を差し出そうとした。が、やめてしまった。
なぜなら彼が、
とても辛そうで、儚げな顔をしていたから。
触れてしまえば、壊れてしまいそうだったから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 32人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
伊達狐@活動停止(プロフ) - 燐さん» ご指摘ありがとうございます。変換ミスのようですね…（汗）申し訳ありません。直させていただきます！ (2018年2月17日 19時) (
レス) id: d530d2d8e8 (このIDを非表示/違反報告)
燐 - 中村祐一じゃなくて中村悠一さんじゃないですか？ (2018年2月16日 18時) (レス) id: 0efc3643a8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
