マンハッタン ページ29
「ん、んん…」
家に着くと、靴を脱ぐ暇もないくらい、キスをされる。
甘くて溶けそうなキスを何度も。
「あ、ふぅ…」
足が立てなくなって、崩折れそうになった瞬間、土方さんに抱き寄せられて立たされる。抱き寄せられると、土方さんの熱が伝わる。
「土方さん」
「歳三。」
「え…」
「歳三って呼べ。…いい加減、余所余所しい態度やめろよ。」
その声には懇願するような響きが含んであった。
泣き出してしまいそうなくらいの弱々しい声。
「とし、ぞうさん…」
肩に頭を預けた土方さんが、もう一度。という。
名前を呼んだのなんて、昔の昔。
初めて呼んだときの恥ずかしさを思い出した。
「歳三さん…」
艶やかな黒い髪を優しく撫でる。
満足そうに笑うその顔はまるで西洋のお人形のようで。
深い菫色の瞳が不安そうにユラユラと揺らいでいる。
「…夢を見たんだ。」
「夢、ですか。」
「あぁ。」
絹のような柔らかな手触りの髪の毛が少し震えた。
満足そうな笑みは消え去り、苦しげで今にも泣きそうな顔をした。
時々、思い出していたあの顔をした。
「眩しい光の中で、俺ぁ、死にそうになってんだ。」
息が苦しくて、本当の死っていうのを感じた。
彼は震える声でそう言った。不安で不安でたまらない。そう言うようにぎゅうと抱きしめてくる。
その手さえ、震えている。
「俺の髪を、撫でてる奴がいた。まるで尊いもんを触るようにな。…そいつの名前を聞くと、泣きそうな顔をしやがった。」
その出来事には心当たりがあった。
それは夢ではない。
現実の、昔の出来事だ。
「貴方にはまだ生きて貰わないと。そう言って涙を流してた。…俺はそいつの事を抱きしめてやりたかった。」
息絶え絶えの状態の土方さんに、己の血肉を分け与えた。
それは、鬼が起こすことのできる「奇跡」の起こし方のひとでもあった。
「可笑しい話だと最初は思ってた。…だかな、今お前を抱きしめていて、確信した。」
揺れ動いていた瞳は真っ直ぐとこちらを見つめ、その菫の中には僕だけが映り込んでいた。
ダメだ、涙が出てしまいそうだ。
「俺にはお前が必要なんだ。お前以外に、必要なもんなんて無いぐらいに」
そのとき僕は、零れ落ちてしまいそうな涙を誤魔化すように土方さんにキスをした。
触れるだけのキスだったけれど、何故が心がとても満たされる。
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伊達狐@活動停止(プロフ) - 燐さん» ご指摘ありがとうございます。変換ミスのようですね…（汗）申し訳ありません。直させていただきます！ (2018年2月17日 19時) (
レス) id: d530d2d8e8 (このIDを非表示/違反報告)
燐 - 中村祐一じゃなくて中村悠一さんじゃないですか？ (2018年2月16日 18時) (レス) id: 0efc3643a8 (このIDを非表示/違反報告)
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