science722(〃side) ページ14
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「____御使よ、天のうからよ。罪びとを赦し、塵にいのちをあらしむべくゆるやかに天翔り来よ。徐ろに列をなし、漂い浮びつつ、なべてのものに、やさしき痕をとどめよ」
『ファウスト』は悲劇だ
故にその結末は言うまでもなくバッドエンド
物語の最終「とまれ、お前はいかにも美しい」と告げファウストは死んでしまう
しかし、作者ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテはただ死ぬだけでは終わりにしなかった。悪魔の思惑通りには終わらせはしなかったのだ
演出技法で言うならば【
「夢落ち」と言う手法もまたそれだ
もつれてしまった状況の中で神が現れ、事態を収拾させる事により物語が終わる
『ファウスト』もその一例
悪魔の思惑通りになど行かず神の使いが現れてファウストの魂を天上へと運ぶのだ
「____かぐわしき薔薇の花よ。浮々と漂いて、密やかに蘇らせ小枝を翼とし、蕾より咲き出る薔薇の花よ、急ぎ花咲け。春よ、紅の花よ、緑の葉よ、萌え出でよ。憩える人に楽土を齎せ」
鏡怪が言葉を紡ぐ度に辺りに神聖な空気が満ちる
人の肌で感じられる程のエーテル、それもやはり己が悪魔を使役しているからか
それとも『ファウスト』の最終部分、天使達の合唱の歌を詠唱しているからか
「____聖なる炎よ。この炎に取囲まるる者は、この世にありて善き人と共に、さきく過さむ。もろともにたちて、称えよ。風は清らかなり、霊よ、安らかれ」
祈る様に唱う
魔女の魂が安らかに眠れる様に
これ以上何もなく無事に天上へと昇れる様に
……嗚呼、そんな事を思ってしまう自分がいると言う事はやはり母親に何もは思えていなかったのか。情が、確かにあったのだ。無意識の中でそんな情が鏡怪の心の中に存在していたのだろう
込み上げた熱いものを呑み込んで、鏡怪は然りと母を見据える
これが本当に最期の看取りだ
(さようなら、お母さん)
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「____すべて移ろい行くものは、永遠なるものの比喩にすぎず。かつて満たされてざりしもの、今ここに満たされる。名状すべからざるもの、ここに遂げられたり。永遠にして女性的なるもの、われらを引きて昇らしらむ。______!」
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作者名:黒神白堊 | 作成日時:2018年10月22日 17時