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「あっやだ、まって、センセ…」


キムナムジュンによって乱されたコ・みかんは、本当は自分たちは目など合っていないんじゃないか、と僕に思わせるほど、お構いなしに、激しく声をあげた。

僕は二度と、本棚の影から顔を覗かせることなどできない呪いにかけられたと言うのに。なんて酷い女なのだろうか。

激しくなっていく2人の呼吸に、あと少し耐えればこの地獄から解放されるのだと自分を元気付ける。

僕はよく、自室でえっちな動画を見る時に音を消して見る。なぜかというと、ただ不安だから。どれだけ小さい音にしても、イヤホンをしていても、音漏れてないよな?とか、この音量って部屋の外まで響いてないよな、とか考えてしまって動画に集中できないのだ。もしも、なにかの事故で家族に聞こえてしまったのなら、羞恥に胸が焼かれて、数日部屋から出られない自信がある。

僕がこの時間、自分の真ん中で膨らんだ欲を鎮めるために唯一思考できたことと言えばこれだ。よりによって何故?と思ったけれど、よく考えてみれば今の状況と思考の中の状況は視覚と聴覚が逆になっただけでとても似ていた。

人間は聴覚だけでも十分に興奮することが出来る。思春期男子の想像力は凄いんだぞ、とそんなくだらないことを考えていれば、欲で膨らんた僕のソレは、少しずつおさまっていった。

僕ふと、甘すぎる声と漏れる吐息がいつの間にか鳴り止んでいることに気がついた。やっと解放された。良かった、あと少しでも長くアレを聞いていたら確実に俺はおかしくなっていた。

安心したのもつかの間、図書室を出ようと立ち上がった僕の目の前に突然現れた人影に僕の心臓はこれまでに無いほど大きく跳ね上がった。

「パクジミン」

目を見開いた僕を見つめて「盗み見?趣味悪い」と目を細めて怪しく微笑んだコ・Aは、見るからに楽しそうだった。

「興味ないよ」とできるだけぶっきらぼうに言い放てば次は彼女が目を真ん丸くした。しかし驚いた顔をしたのも一瞬で、また楽しそうな顔で笑うと、彼女は僕に一歩近づいた。

それにつられて一歩後づされば、また一歩踏み込むコ・A。
本棚に背中がくっついてジリジリと追い詰められていくこの状況に、心臓がバクバク音を立てる。

まるで駆られる獲物だな、僕は。なんて呑気なことを思ったのは、少し背伸びして顔を近づけてきた彼女の行動に脳が処理落ちしたからか。

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作者名:J | 作成日時:2022年6月16日 20時

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