149.無茶は慣れてる ページ5
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『出来る!Aなら出来るぞ』
『もう少し、頑張ろっか』
声が聞こえる。懐かしい、あの声が。
笑顔で励ましてくれるけど、あの笑顔は怖かった。
決して、泣いて縋ってもやめてくれない、痛かった。
『あの子は絶対に渡さない!』
『俺達が死んでも、ここでオマエは殺す!』
………アレ、なんだっけ…
この言葉、"知ってる"のに知らない。
思い出そうとした所で真っ白い光に包まれる。
声も何も聞こえない。そして、
「ようやく起きた?」
家入の姿が視界に入った。
「いえ、いりさん……」
掠れた声が自分の口から出る。
ここが医務室だと理解するのに
時間はそこまで掛からなかった。
寝台から上半身起こすとフラッとし、
頭が少し痛くなる。
「何でこうなってるのか、思い出せる?」
家入の心配する顔を見て、どうしていたのか思い出す。
思い出したのはボロボロの伏黒の姿。
目を大きく開け、家入に問いかける。
「恵!恵は大丈夫ですか?」
「伏黒なら今眠ってるよ」
隣の白いカーテンで仕切られたそこ。
処置は終わり、今は眠っているらしい。
少し前、釘崎もここにきて処置をしたと。
ホッとしたAの顔に家入は眉を寄せる。
「アンタ、反転術式使ったんだって?」
「……実際、使えてません。また失敗です」
「そういう問題じゃない。
実際、アンタが倒れたのは無理したから」
反転術式には高度な技術が必要。
簡単に出来るものではなかった。
現に、教えたってそれが出来るものは数少ない。
「はぁ…無茶するなってあれほど_____」
「気付いてたら、やろうとしてました。
頭、回ってなくて…
家入さんの所にすぐ行けば良かったのに」
冷静に判断できたならば、
あの場で出来ないことはしなかった。
まだ自分は反転術式も出来ないのに、
なぜあの場で伏黒を治そうとしたのか。
体が勝手に動いていた、というやつ。それに、
「…私は、無茶しなきゃダメなんです」
無茶、という言葉が合うのかは
分からないがそんなもの慣れている。
なんなら、子供の頃から無茶というものはしてきた。
「…約束、忘れたわけじゃないよね」
それは家入との約束。
反転術式の特訓に
付き合う代わりに無理をするなというもの。
その条件付きで彼女に教わっていたA。
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作者名:結祈華 | 作成日時:2023年2月5日 0時