41.何もない ページ41
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「………………そうだな…助けた理由、か…
…正直な所…俺には、お前のその質問に
明確な理由なんてものは答えられない」
「(…え?)」
「お前を助けた理由なんて 俺には無いからだ」
助けた事に理由がない、なんて…
ますます意味が分からない。
緩んでいた胸ぐらを掴んでいた手に
ギュッと力を入れて握った。
「ただ、お前が死ぬべき人間じゃないって…
そう思っただけだ」
ドクンと心臓が大きく音を立て、
また胸ぐらを掴む手から力が抜けた。
死ぬべき、人間じゃない…?
死ぬべきじゃないって言った?
そして彼は……_____
「…にん、げん……?」
自分の事を、人間と言った。
その言葉に、思わず顔が上がり
Aは伏黒の方を見上げる。
伏黒の真っ直ぐな瞳が自分を突き刺していた。
そんな彼から目が離せない。
「お前は……自分が人じゃないとか式神だとか
そこに拘っているようだが…
俺がお前を1週間見てきたが、
どう見ても人にしか見えなかった」
それに、式神だったら
勝手に1人でどこかに行ったり、
俺を困らせたりしない。
伏黒はそう言葉を付け足したが、
Aの耳には入ってこなかった。
自分を人だと…初めて言ってくれた伏黒に、
止まりかけていた涙が
瞳に溜まって溢れそうになる。
「それと……その腕」
伏黒が手を少し上げて、Aの腕を指を指す
その場所を見てみると、
右手の肘辺りに擦ったような傷が出来ていて
少しだけ血が垂れていた。
全然気が付かなかった。
「呪霊に襲われても
少し痛いだけだってお前は言ってたけど、
全然大丈夫に見えないな。
ましてや、お前は危なっかしい」
その傷にも気付かなかったんだろうと言われ、
大した傷ではないしと反論したがったが
それを押さえ、
Aは伏黒の胸ぐらを話すと
その傷を隠すように傷口に手を当てて
目を逸らし、よろよろとその場に座り込んだ。
伏黒は座り込んだAに
目線を合わせるように、自分も座り込む。
「お前は自分の事について顧みないからな、
さっきみたいに突っ走るのも
死んでも構わないとか考えてんだろ?」
「!ちがっ、私はそんな事_____」
「違わない。
…逆を言えば、生きる事に頓着な奴が
自分の怪我にも気付かない程に、
そんな風に突っ走れるわけがない」
少なくとも、生きてる事が
どうでも良いって思ってる奴の動きだ。
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作者名:結祈華 | 作成日時:2022年12月21日 15時