28.価値の基準 ページ28
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その言葉にも言葉なんか返せなくて、
Aは流石に逃げるように目を逸らした。
あの時も、同じ事を思った。
死ななくては…頭でそんな事を思うが、
別に死にたいとは思っていない。
だから、自分で死のうと…
自害をした試しがないから。
母と父と最後に交わした言葉は"生きて"だった
自分を狙う呪術師から逃げて逃げて逃げて…
そして生きろと、2人は言った。
何となく、ずっと逃げてきた。
追われれば逃げる、
呪霊がいれば気づけば祓っていて…そんな人生
「君は…白神さんは、死ななくていいんだよ」
不意に乙骨の口から出た言葉にAは
息がつまり、ドクンと心臓が音を立てた
死ななきゃ駄目なんだ、
死ななくて良いんだよ…
心の中の言葉を読み取ったように
真反対の乙骨の言葉はAを驚かせた。
自分と同じだと言った乙骨…
彼の言葉は、あまりにも
説得力のある(強い)言葉だった。
下唇をギュッと噛み、
震えた手に力を入れて拳を作る。
バッと乙骨を睨み見上げたA。
「そんな事ないんです！
人間のなり損ないな私は 生きてる価値なんて」
「そんな価値、誰が図るの？」
「……私です。
私が自分を、生きてちゃダメだって____」
「少なくとも、僕はそう思わない…
皆だってそうさ」
「み、んな…？」
「君が会った皆。
真希さんに狗巻くん、パンダくんに五条先生…
それに、伏黒くんも」
気付いたら、
乙骨の手はAの頭に乗っていた。
大きくてゴツゴツした手のはずは
自分の頭を撫でてきて…
これまでに五条の手が自分の頭に乗ったが
どちらも感触は違うのに、
同じように暖かくて心地よかった。
……これは自分が猫だから、
猫だから撫でられるのが好きなんだ、と
自分にそう言い聞かせた。
「………生きてて良いと、思えたんですか…？
…乙骨さんは」
ここに来て初めて、誰かの名前を口にした。
Aは下を向きながらそう呟くと、
乙骨の手は止まった。
ゆっくりと上に顔を上げてみれば、
乙骨がこちらを見て優しく微笑んでいた。
「うん。生きてて良いって思えた…
だから白神さんも、
きっとそう思えるようになるよ」
夕焼け色に染まった乙骨の優しい笑みは
冷たいAの心を少しだけ温めた。
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作者名：結祈華
| 作成日時：2022年12月21日 15時
