それ、わたしじゃないです。２【佐野万次郎】

rumor,85 ページ49

そして、









　









ｷﾞｭｯ









　









雨の中抱きしめられたように、
私はまた、千冬くんに強く抱きしめられていた




……いやいやいやいや、
どうした、急に、うん、千冬くん？









「…A」




「え？」




「クソかわいい」




「ッ!!?」




「照れてんの？」




「ッ、バッカ!!!!」









突然何を言い出すんだこの子…


千冬くんは私を抱きしめて、
少し離し、抱きしめながら私の顔を見てくる。


どうせなら…抱きしめられたままなら、
顔なんて見られたくないのに、
見ようとすんな。









「オレの服着てるとか…想像以上だな」




「…………………やっぱ、濡れてるけど
制服に着替えようかな」




「それはやめとけ」









何が想像以上だ、

こっちがどんな思いで今
いるのか知らないくせに。


こちとら、クッッッッソ恥ずいんだぞ!!?









「……あの、ね…

服を貸してもらえるのは
ありがたかったし、

着るまでは全然、
こんな恥ずかしいとは、思わなくて…」




「…だろうな、Aは鈍いから」




「……何か、貶されてる？」




「そこが良いって、オレは思ってる

…だって、何も考えずに
やって欲しいことやってくれそうだし」




「オイ、ふざけんな_____」




「A、好き」




「………」




「はっ、黙った」









好きとか、そんな言葉に慣れるわけがない。


照れ臭くて、何て言葉を返したら良いか
分からないし、戸惑うばかり。









「………あ"ーっ
おまえの事 家に帰したくねぇし
このままオレの腕ん中にいてくんねぇかな」





「千冬くん、それは難しいね…
私は帰らないと…」









大きなため息をつきながら
千冬くんはやっと、私を離してくれた。


でも、彼はそれから動かなくて
私を見てくる千冬くんを
私も見返すように見上げていた。









「……？千冬く______」









ピタッと私は言葉を止めた。


唇には、千冬くんの人差し指が当てられて
話そうにも話せない。









「……一回だけ、
呼び捨てで呼んでくれねぇ？」









一回だけで良い、我儘は言わない…

千冬くんは私の口に人差し指を当てたまま
そう言った。

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