男勝りなあいつの"女"を見た瞬間２【松野千冬】

66.言ってしまった ページ19

周りにいた人らもちらほら
その場からいなくなるのが分かる中、

千冬は地面に倒れたまま
空をジッと見つめた。









「(……つい、言っちまった)」









言うつもりなんて無かった、
でも口から出た言葉は止められなかった

"好き"という２文字、伝えてしまった。









「(…にしても、結構キタナ…大っ嫌い、か…)」









神崎から母親を奪ったようなものの自分、
嫌われている、怒っているだろうなと
思って覚悟もしていた

それでも直接言われるのは
やはり心に刺さった。









「(…あいつ、泣いてたな…)」









神崎の泣き顔を思い出しながら
自分まで泣きそうになる。


自分の目元に腕を乗せて
そのまま横になっていると、









「…松野くん」









腕を退けて目を開ければ
そこには2人の女子生徒が
千冬を覗き込んでいた。


よく見れば、その2人は
同じクラスの人達なのに気づく。


千冬は体を起こして立ち上がり、
2人の女子生徒にどうしたのか尋ねる。









「神崎さんと松野くん、仲良かったんだね」




「…仲良かった、か…

はっ、大っ嫌い何て言われたけどな…
ダセェよな」




「でもね、本心で言ったんじゃないと思うよ」









どういうことか、千冬が前を見れば
2人はどこか、羨ましそうに微笑んでいた。









「神崎さんのあんな顔…初めて見た」




「誰かに、ああやって
言いたい事ぶつけてる姿もね」




「私達には神崎さん、
一歩引いてるみたいだったから」




「松野くんの事は、
本気で信用してるって分かったよ」









それが本当かどうかは神崎にしか分からない。


でも少なくとも、今の千冬は
2人の女子生徒の言葉に
少しだけ気持ちが軽くなった。









「あの先輩達、神崎さんに
家のことを話してたって…

"虐待されてたんだろ"って」




「(…そりゃ、怒るよな…)」









　









　









『あんなお母さんでも、大好きだったんだ。
ずっと、側にいてくれた…』









　









　








神崎の震えていた言葉を思い出す。


たった1人の家族(母)を
まるで悪者みたいに周りが言うのだ。


彼女にとって、良い気はしないだろう。

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