それ、わたしじゃないです。【佐野万次郎】 (ページ6)

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呼ばれているのは自分ではないだろうな、
何て思いながらも
一応振り返ってみる。

そこには、肩までの長さの金髪で
長い前髪を上に持ち上げ
ゴムで後ろに止めている男子が立っていた。

学ランには腕を通さず、
肩にかけるように羽織って着こなす彼は
ジッと私の方を見ていた。

またキョロキョロと周りを見る私だが
やっぱりそこには私しかいなくて
彼は私を呼び止めたのかと理解した。

「え、と……私？」

「おまえしかいねーじゃん」

真剣にこちらを見ていた彼は
そう言うとニッと笑った。

「なぁ、Aっておまえのこと？」

「え？う、ん…？えっと…誰？」

「そんなことよりさ、
ちょっと来てくんない？」

「(そんなことって…いや、まず名を名乗れ)」

目の前の男は、ただニコニコしていて
私の話なんか聞いていないようだった。

でも、誰って聞いたんだから
名前くらい名乗ってくれても
良いじゃないかと思う。

"来てくれないか"……
その言葉は私に選ぶ権利は無さそう。

読めないこの笑顔が
何だか怖くなってきた。

「…ど、こに…？」

「えー？…内緒♡」

「ッ」

「そんなさ、怯えないでよ…ね？」

怖い……この男は危険、
言葉なんかじゃ説明できなくて、
本能がそう言ってる。

名前も知らないこの金髪男に
教室に戻りたかった私は拉致られた。

　

　

・

　

　

そろそろチャイムが
鳴っちゃうんじゃないかな…と考えながら

金髪の彼に連れてこられたのは屋上。

鍵のかかった屋上の扉を彼が、足の一蹴りで
壊してたのは見てない…見てないから

屋上を軽い足取りで入る彼に比べて
私の足はとてつもなく重い。

見覚えのないこの男に呼ばれて
屋上に連れてこられて…

何されるなんて思ったら怖すぎた。

「(私、これから死ぬ…？)」

知らない間に彼に何かしてしまったのか、
必死で考えるものの答えは出ない。

屋上の柵に近づいた彼は
クルッと私の方へ振り返る。

ピクッと、驚いて
自分の肩が跳ねたのを感じる。

「_____おまえ、オレのこと好きなの？」

「___は？」

本日2度目の"は？"が
自分の口から出た。