保健室【渡辺翔太】 ページ5
渡辺「せーんせ」
「また来たの？先生が怒られちゃうじゃん」
渡辺「いいじゃん。学校楽しくないんだもん」
ベッドに飛び込んだのは渡辺翔太。
毎日保健室にさぼりに来る男の子である。
そんな彼をかくまっている私は怒られてしまうのだが彼はそんなこと知るよしもないのだろう。
「楽しくないのは分かるけどさ」
渡辺「でも俺、保健室だけは好きだよ」
「なんで？」
渡辺「先生がいるから」
「なっ」
こんなことを平気で言ってしまうのだから最近の子は怖い。
今の私はいつものように顔が真っ赤になっているであろう。
渡辺「ははははぁ！せんせマジで慣れないのな」
「…ところで今日もコーヒー飲むの？」
渡辺「飲む！」
渡辺くん専用のマグカップでコーヒーを入れてあげる。
彼ととてもよく似たキャラクターがプリントされたカップに注がれた温かいコーヒーをふーふーと息を吹きかけながらちょびちょび飲み進める渡辺くん。
毎日見ているというのにどうしても『可愛い』と言ってしまって、
渡辺「先生の方が可愛いよ」
っていう生徒の言葉に惑わされる。
なんで君は、私をそうやって狂わすの？
君は生徒で。私は先生で。
絶対に好きになっちゃいけなかったのに。
「はぁ…」
渡辺「ため息ついてっと幸せ逃げんぞ」
「分かってるよ…。で、次の授業は頑張れる？」
渡辺「仕方ねえなぁ」
「ん。行ってらっしゃい」
こうやって一時間休ませてあげたあとは送りだして、ちゃんと授業を受けさす。
そして私は彼が出て行ったあとの片づけをするわけだが。
「しょうがないなぁ…」
彼はいつもここに入り浸るものだからお菓子の隠し場所だって分かってしまった。
で、勝手に持ってきて食べてしまうのだ。
だから机の上にはお菓子の袋が転がっている。
これも毎日の事だ。
1つ、また1つとゴミ箱にいれて行き、見つけたのは、
「メモ？」
見てはいけないと思いつつ勝手に見てしまった私。
そこに書いてあったのは、
『Aせんせ、好きだよ』
お世辞にもあまりきれいとは言えない渡辺くんの字が並んでいた。
なんだ、本当に。
どこまでも私は君に落ちてしまうじゃないか。
もうだからいっそのこと、落ちてやる。
私は明日もここで君の事を待つよ。
渡辺「せーんせ」
コーヒー香るこの部屋で。
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作者名：雪の王子様 | 作成日時：2020年11月18日 21時
