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「………」
彼は私の突然の台詞に驚いたのか、目を大きく見開いていて、ポカンとしていた。
一方で、台詞を言った張本人である私は急に恥ずかしさが込み上げてきて、頰がじわじわと熱を帯びていく。
「…そんな一気に言わなくても、教えるつもりだよ。」
けれど、沈黙を破る事には成功したみたいだ。
彼は前髪をグシャグシャっと掻き上げ、面倒臭げに溜息を一つ吐く。
翠玉の瞳は、いつの間にか冷たい光は消えていた。
口調とは裏腹に、微かな微笑を浮かべた彼がソファーから立ち上がった瞬間、タイミングよく奥の方からピィーッと、薬罐(やかん)の音が聞こえる。
「…茶を淹れてくるから、話はその後でも良いか?」
コテンと首を傾げ尋ねてくる。
少し戸惑ったが、話してくれるらしい。引き止める理由も無いし、態々お茶を淹れてくれる親切心を無下にも出来なかった。
私が頷いたのを見ると、彼はそのまま部屋の奥に入って行く。
数分後、二人分の紅茶が乗った銀のトレーを持って戻って来た。温かな湯気を立てている琥珀色の紅茶は、ほんのりとハーブの良い香りがする。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
カップを受け取り、息を数回吹いたら中身を一口飲んだ。優しい味の紅茶は、緊張と焦りで強張っていた私の身体と気持ちを、少し緩ませてくれる。
「…天音だよ。」
「へ?」
「だから、天音。俺の名前…後【時間(とき)】って云うのは文字通りの意味で、ジカンを意味してる。」
簡潔に質問に答える天音と名乗る彼。
そうじゃ無いんだ…言葉の意味は分かっている。でも、彼の答えは私が求めていた答えでは無かった。
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ミサぽん(プロフ) - みなとS*さん» コメント有難う御座います。まだまだ未熟者で、文章も素人ですがこれからも読んで頂けるよう頑張ります! (2018年11月3日 8時) (レス) id: 1a944b5105 (このIDを非表示/違反報告)
みなとS*(プロフ) - 文章がとても綺麗で、引き込まれてしまいました。設定もどんどん先が気になってしまい、気付いたらページをまくっている感覚です。猫の恩返しと似た空気があり、そこも好きです。更新楽しみにしています。 (2018年11月3日 3時) (レス) id: 06aef33b9e (このIDを非表示/違反報告)
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