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大の字に地面に倒れ込んだイザナを見て、マナカが大きく息を吸い込んだ。そして、よろ、と1歩足が前に出る。

『まてマナカ』
『やだ、イザナくんが』
『あぶねえだろ、下手したらお前も撃たれるぞ』

あそこまで執着する理由はともかく、イザナを媒体にするためだけに、鶴蝶を躊躇なく撃った稀咲がマナカを撃たない理由は恐らく無い。
マナカを軟禁するほど執着していたイザナを、稀咲が言う媒体にしたいなら、間違いなくマナカは邪魔と思うに決まってる

『でも、私が行かなきゃ、』
『…っ、おい!』

ふわふわとした足取りで、イザナの方へ歩いていく。

『……え。なんで、マナカちゃんが、こんなとこいんの』
『あとで、必ず説明するから』

マイキーの方を見て、懐かしい顔で笑って、イザナに真っ直ぐと。
そしてイザナのすぐ側にそっと腰を下ろして顔を近づけた。多分、なんか話してる。この距離じゃ当然聞こえない。

俺は、呆然としたままの稀咲に目を光らせながら、この場所に不釣り合いなマナカを見守る。
とはいえあんな近くにマイキーだっている。稀咲も変なことは出来まい。

『だ、大丈夫、ですかね』
『…未来で、マナカはどうしてる?』
『…え、』

びくり、と分かりやすくタケミっちが固まる。
俺はとたんに嫌な予感が背筋を冷たく流れて行った。
そしてそんな俺を嘲笑うかのように、ゆらり、とマナカが不自然に揺れて、黒川の上に突っ伏した。

『……マナカ?』

倒れ込んだマナカの脇腹からじわじわと赤色が侵食していくのを見て、一気に肝が冷えた。マナカが、イザナに、刺された?
痛みで失神でもしたのだろう。ピクリとも動かない。

なんだか自分の傷まで痛んでくるようだった。

『マナカ、ちゃ』

マイキーが掠れた声でマナカの名前を呼んだ。

『おいおい、マジかよ』
『ど、ドラケンくん…!お、れ、本当は、』
『くそっ、』


ゆらりと。先程までぴくりとも動かなかったマナカの右手が持ち上がって、黒川の頬におずおず伸びた。痛みで震える上半身を僅かに起こして、血で濡れた唇は音を紡ぐ。


『ごめんね、大好きだから』


すり、と指先で黒川の頬を愛おしそうに、優しく撫でると僅かに微笑んだ。そして、今度こそ、マナカの身体はマリオネットのように地面に崩れて、ぴくりとも動かなくなった。

『マナカちゃん!』




遠くで聞こえる救急車の音に安堵と焦燥すら感じる、夜更けの横浜埠頭。



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作者名:亜秀 | 作成日時:2022年2月6日 20時

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