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『堅くん』
『あ、?』
この場に似合わない柔らかい調子の優しい声に、に隣にいたドラケンくんが振り返る。
…あ、そうか。堅くん、ってドラケンくんの事か。いざ本名で言われるといまいち分からなかったな。
声の主は、白色のファーコートにショートブーツ。色素の薄い、長い髪の毛が冷たい風にさらさらと流れていた。
簡単には人を寄せつけない、神話的とさえ思える空気が漂っていて、思わず目が奪われた。途端にヒナが俺を小突いてくる。
『……は、マナカ?』
『……え?』
『…おまえ、なんで、』
呆然としたドラケンくんがうわ言のように彼女の名前を何度も何度も繰り返した。…こ、この人が?この人が藤宮まなか?
『おまえ、今までどこいたんだよ、』
『……イザナくんの所』
『は?』
『イザナくんの所にいたの』
『マイキーがずっと心配してたぞ』
『うん、ごめんね』
そこまで言ってドラケンくんは黙り込んだ。
『早く帰れ、おふくろさんも心配してんだろ』
『親不孝者だ、わたし』
『他人事じゃねえんだぞ』
分かってんのか?おまえ、現在進行形で警察に捜索届けが出されてんだぞ?1年近くも、行方不明になってんだぞ。
真剣な声でそう言うと、僅かに肩を揺らして動揺する。
『もちろん、分かってる』
『分かってねえよ。分かってたら、わざわざこんな所に来るわけねえからな』
『…分かってる、』
『マナカ。イザナに何か言われたのか?なんで関係の無いお前がこんな事してまでイザナを構う?』
きゅ、と真っ赤な唇を引き結ぶ。
『……はぁ。お前は優しすぎなんだよ。
いいか?イザナのやったことは立派な犯罪だ。あいつは加害者で、お前は被害者。お前が言ってることがマジならこれは紛れもねえ事実だ。
マイキーがお前に今日は泊まっていけって駄々こねてんのとは訳がちげえんだぞ』
あ、マイキーくんってそんなに懐いてたんだ…じゃなくて!!
ドラケンくんの言葉に、彼女はふるふると首を横に降った。
『…違くないよ』
いつかなんかで読んだ記憶がある。彼女がストックホルム症候群というやつなら、イザナはリマ症候群と言えるかもしれない。
彼女は色んな感情が混ざった複雑な顔で、視線をすっと下へ移動させる。
『イザナに見つかってめんどくせえ事になるまえに、はやくこっから、』
ドラケンくんがその後、なんて言ったのかは聞こえなかった。
『天竺の負けだ!!イザナ!!!』
カクちゃんの咆哮で。
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作者名:亜秀 | 作成日時:2022年2月6日 20時