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Prolog ページ1




兄貴の墓の前で立ち竦むマナカちゃんの隣に並ぶ。


『ねーマナカちゃん、』

『…わたし、こんな時にできること、泣くことくらいしか知らないの』

『…ウン』

『こころが弱いから』

『…』

『笑って挨拶とか、近況報告、とか、器用じゃないから出来なくて、ごめんね。シンイチローくん、ごめんね』

マナカちゃんの頬をきらきらした何かが滑り落ちたと同時に、オレの脳天に水が落ちる。空を見上げると、曇天。薄暗くて、雨のにおいがした。

ぱたぱた、ぽたぽたと空から落ちてくる雨と、マナカちゃんの目から溢れ出る涙は比例して増えていく。あっという間に、カラカラの地面に模様を作った。

『マナカちゃん、雨降ってきたよ。風邪引くよ』

『寂しいよ、ほんとは寂しいの』

『本降りになる前に、かえろ?』

『わたしも、』

わたしも。マナカちゃんはそう言って、ぐっと言葉を詰まらせた。紅色の唇をくいと横に引いて、続きの言葉を飲み込んだ。

雨に濡れた花が下を向く。俺はマナカちゃんの服を引っ張った。


『帰ろ、マナカちゃん。

兄貴には晴れてる日にまた、会いに来ればいーよ。な、兄貴?』


あれ。雨って、こんな生暖かかったっけ。

自分の頬を滑り降ちる雨粒を空いた方の手で強引に拭い切る。服の裾を握っていたもう片手で、マナカちゃんの冷たい指先を捕まえると、そのままぎゅっと握って雨の中を歩く。

年上の手を引く年下。傍から見れば、それはそれはおもしろい構図に違いない。あーあ、これじゃあどっちが年上か分かんねーよ?

雨粒で冷えた頬に一筋だけ生ぬるい道ができてた。



…オレも、明日からはもう泣かないから、マナカちゃんも泣かないでよ。なんかオレが兄貴に怒られそーだもん。




冷えたマナカちゃんの手をぎゅっぎゅと握りながら歩く。


水を吸い込んだ靴が重いのか、単に霊園を抜ける足取りが重いのか、おれには分からなかった。





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作者名:亜秀 | 作成日時:2022年2月6日 20時

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