二十二 ページ24
昔々あるところに優しく美しい姫と強く美しい殿がいました。二人は恋に落ち、互いに愛し合っていました。周囲の者たちは二人が結ばれることに反対していましたが、やがて二人は無事に結ばれることとなりました。人里離れた一軒家で子供に恵まれ、末長く幸せに暮らしましたとさ。
私 『さて、いくつか言及すべきところがあります。まずこの御伽噺は実話ということを頭に入れておいてください』
近藤 「言及すべき、というと？」
永倉 「二人は無事に結ばれたってとこ、なんか説明が雑じゃねぇか？」
私 『良い目の付け所ですね。二人は愛し合っていたと言いましたが正しくは』
異常な程愛し合っていた。と言ってもあまりピンときてないようだが、この後の話をすれば納得できるだろう。
私 『どうやって結婚を反対した周囲の人たちを黙らせたと思いますか？』
平助 「どう、って...」
沖田 「殺したんじゃない？」
平助 「御伽噺で物騒なこと言うなよ！なぁ」
私 『正解です』
平助 「は...」
私 『もちろん最初は二人の幸せを願って見守ってましたけど、あまりにのめり込むので、目を覚ますよう訴えましたが二人は聞き入れず、殺したという訳です。訴えかけた人の中には当然家族もいたでしょうね』
斎藤 「実の親まで手に掛けたということか」
私 『まだありますよ。穢れた血の由縁は』
永倉 「これ以上何が...」
私 『お互いの血を永遠にするために近親婚をしているんです。私の婚約者も妹でしたよ』
原田 「妹が婚約者って、Aは...」
私 『私が男として育てられた理由。これが一番知りたいんじゃないですか？』
被衣を取り、顔を晒す。藤色の髪と白い瞳。美しくも私にとっては忌々しいだけ
私 『姫と殿は子供に自分たちのような人生を歩むことを望んでいました。性格も言動も全て二人と同じになるよう教育が施されます。人生においての出来事でさえも決まっています』
そして...
私 『私は随分見た目が殿に似ているそうです。女として生を授かっても男として生きる道しか用意されませんでした』
前世の記憶がなければ逃げるなんて考えもせず、今頃も里で自分ではない誰かを演じて一生の地獄を味わっていただろう。
なぜ私がこの世界に、あの里に生まれたのかを考えなかった日はない。ただの偶然かもしれない、でも偶然でないとしたら？
私は、異常が正常である藤波に異議を唱えられる唯一の存在ではないのだろうか
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：柊木 | 作成日時：2023年3月25日 1時
