【私的】あばれ大蛇とエンマさま (ページ29)

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新たな幸せページ29

其れから妖怪として、様々な経験をした。
閻魔との約束通り、今でも山頂から町を見守っている。
元祖軍の一員として、先陣を切って特攻した。
そして、新たな友も沢山出来たと思う。
何より過去に縛られなくなった気がする。
復讐は何れ果たすつもりではあるが、閻魔に会いたいと涙を流す夜は少なくなった。
閻魔の数え切れない程の贈り物。
無償の愛情、確かな居場所、新たな幸せ、紅の簪…………。
何れ一つ取っても閻魔との素晴らしい思い出なのだ。
そして、こうして新しい幸せを築き上げた今、私は敢えて此処に戻ってきた。
妖魔界の中心都市。閻魔宮殿のある此の地に。
門番は折衝で和解したのち、中に入れてくれた。
向かうは閻魔宮殿の大広間。現エンマ大王が其処には居る筈だ。
絢爛とした廊下を記憶を頼りに進んでいった最奥に見えた重たい扉を力いっぱいに押して、久方ぶりに成長したであろう若き王を謁見しよう。
「ん、誰だ？」
「………………ガキか？」
久しぶりに聞いた声色と容姿に、思わず目と耳を疑った。
すっかり声変わりした青少年の透き通った声に、端正で品のある面持ち。
まだ幼い筈であるのに、其の堂々たる出で立ちは凡ゆる波瀾万丈を乗り越えてきた者の顔だ。
しかしガキ……エンマは其れ以上に驚いた様に目を見開いていた。
「オロチ………か？暫くぶりだな。俺の元を訪れるなんて、如何云う風の吹き回しだ？」
「此処が恋しくなってな。変わったな、ガキ。」
「俺はもうエンマ大王だっての。ガキって言うなよ。逆にお前は全く変わってねぇな。並んだら俺の方が大きいんじゃねえの？」
「黙れ。」
けらけら笑うエンマを睨んでやるが、ふと思い出したかのようにエンマは言う。
「あ、そうだ。昔お前より大きくなったら娶るって言ったよな。」
「げっ………」
何故此のタイミングで其の話を引っ張り出す。
「じゃあ約束は守らなきゃなぁ。」
「結構だ。もうお見合い話の一つでもあるだろう？」
「ねぇよ、そんなもん。」

………………嗚呼、厄介な事になった。

楽しい人生だ。