風に靡く朱殷 ページ1
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「どちらに行かれるのですか！A少将！？」
『知らない』
彼が自転車で海へ漕ぎ出すのを見つけて私は部下の抑止の言葉に耳も貸さずに窓から本部を飛出る。
どこまで行くのかなんて、私にだって分からなかった。
追いかけて自転車の荷台に飛び乗ると、彼は私が来るのを初めから分かっていたように前を向いたまま話しかけてくる。
｢やっぱついてきちゃったのね、Aちゃん｣
『貴方が誘ったんでしょ？それに室内で資料捌いてるのって退屈』
「悪い子だなァ。他の奴より出来る癖に」
『貴方の部下だからね』
それからは二人とも黙って静かに海を走り続ける。
静かな波の音も、自転車の揺れも、潮の匂いがする風も、彼の背中の温もりも、全てが酷く心地いい。
「……海軍、辞めるんだって？」
『うん 』
寂しくなるなって小さく呟く彼に私はちっとも、と首を振る。そうやって素直になれない私を横目で見て、相変わらず手厳しいなァと微笑った。
『ありがとう、クザンさん』
「まァ、アレだ。元気でな。……あと、1日早いが明日は祝わせてくれねェんだろ？…17歳の誕生日おめでとう。いい船出にしろよ」
そう言ってポイと渡されたのは有名ブランドの細長い箱。
開けるとそこにあるのは、澄んだ碧色をした花の形をした可愛らしいネックレスだった。
『似合わないよ、こんなの……』
私が泣きそうなのを察してか、それから彼は一度も私の顔を見なかった。
これが私の海軍人生最後の日。
部下も同僚も上司も、やりかけの資料集めも、部屋の外に置いてあった手紙も、用意された船と食料も全部放り出し、ただ彼に貰ったネックレスだけを持って12時ちょうどの真夜中、私は海へ出た。
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作者名：紅蛇 | 作成日時：2020年10月21日 21時
