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オレの腕の中で消えていったA。毎回この瞬間は寂しさで目が潤む。
ゆっくりと下山して家に戻ると、母ちゃんがなにやら怒っている。
「ちょっとロボロ、また社に行っとったんか!」
「悪いか、仕事は終わらせたんやから文句言われたないわ!」
「そういう問題やないわ!もうすぐ20歳にもなるのに村の女の子と遊びもせんと、なんで社なんかで遊ぶんや……」
「ええやろ別に!」
いつもカリカリしとるけど、今日はいつにも増してやな。母親なんてうるさいだけや。いっそ家を出たい。
「もう社に行くの禁止や。ちゃんと村の中で遊びなさい」
「はぁ!?なんで禁止されなあかんの!?誰にも迷惑かけてないやん!」
「ちょっとは長男の自覚持ちなさい!母さんがどれだけ心配しとるかわかっとんの?!」
「しらんわ!!」
「それに、社の取り壊しが決まった」
「……は?」
「最近は大雨洪水、地震に雷。災害ばっかりで社にお願いしてもぜんぜん収まらん。もうA様は居ないんとちゃうかって。取り壊し中は危ないし、ホンマに近寄ったらあかんから」
「なんで……なんでそんな事簡単に決めるんや!」
「簡単には決めてへんよ、村の大人みんなで話し合った結果や」
「そんな勝手に……中止や、今すぐ!」
「無理や、取り壊しの日程も決まった」
「はぁ?あそこには、社には村の英雄がおんねんぞ!?」
「言うこと聞かん子はA様の贄になってまえ!」
「あぁ!なったるわ!」
「……ちょっとロボロ!」
家を飛び出し夜道を走る。
嘘やろ、嘘やん。確かに最近は災害も多い、でもそれはAのせいやない!勝手に作って勝手に祀って、今度は勝手に壊すんか!?勝手がすぎる、もう嫌やこんな村!
「……A!」
社に到着して名前を呼ぶが、勿論返事は無い。
その時急に激しい雨が降って来て、社の中に逃げ込む。これは明日まで続きそうやな。
薄暗い社の中、落書きだらけの壁を眺める。
みんなの名前……最初に書いたな。下手くそすぎて恥ずかしいわ。この下品な絵は、きっと大先生とコネシマやろ。こんなところに書くなや。
隅っこに人間の顔らしきものが12個。こんなん書いたっけ?もしかしてA?はは、オレらの似顔絵か?全然似てへんやん……でも特徴は捉えてるな、味がある。
ふと見上げた壁には、また小さい文字。
"ひとになりたい"
平々凡々な人間の一生を願っていた。村の英雄が、神様にされた女の子が、ただの人間になりたいと言った。
。
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ベルギーチョコ(プロフ) - ティッシュ一箱使い切るまで泣いてました。今までで一番泣いたと思います。本当に素晴らしい作品をありがとうございました (2021年12月13日 4時) (レス) @page30 id: a8b18d6813 (このIDを非表示/違反報告)
えみ(プロフ) - 今まで読んだ作品の中で一番綺麗な世界観と文章でした。もっと早く出会いたかった…こんなに素敵な作品をありがとうございます。 (2021年6月17日 19時) (レス) id: 325d54ee5c (このIDを非表示/違反報告)
人妻すここ(プロフ) - bloomさん» はじめまして、最後まで読んでいただけて嬉しいです。そう言っていただけて、同じ文字書きとしてとても嬉しいです、こちらこそコメントありがとうございました! (2021年3月26日 5時) (レス) id: 89365ba13c (このIDを非表示/違反報告)
bloom(プロフ) - 素敵な作品に出会えました。この作品に感化されて私も話を書いてみようと思えました。ありがとうございます! (2021年3月26日 0時) (レス) id: 8bbe5d5c73 (このIDを非表示/違反報告)
人妻すここ(プロフ) - あるかさん» コメントありがとうございます!確かに少なめですね、見つけていただいてありがとうございます。後書きまで読んでいただけたのでしょうか、感謝です。幸せなラストだと仰っていただけて嬉しいです、これからも頑張ります! (2020年3月30日 16時) (レス) id: 89365ba13c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すこ | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/home
作成日時:2020年2月2日 8時