317、どうしようもない ページ21
タツヤはしばらく食堂の前で呆然と佇んでいた。この扉の向こうにはAとヒロトがいる。そんな光景から一刻も早く逃げ出したいはずなのに、足が動かない。
…と。
「あ、いたいた！基山くーん！」
つくしが向こうから走ってきた。
「…どうかしましたか？」
「はい、これ！渡すの遅くなってごめんね」
つくしから渡されたのは小さめの封筒。
「それじゃ、私はこれで！」とだけ言って、つくしは去って行った。
何だろうと思って中身を取り出してみると。
「…あ…」
ロシア観光の時に撮ってもらった写真だった。
そうだ、自分で俺の分の写真も頼んでいたんだった。にしても好ましくない時に渡されたものだ。
(…俺…こんな顔してたんだ)
写真の中にいるタツヤはもはや目の前のカメラもロシアの街も見えてはいなかった。
恍惚とした表情で、隣にいるAだけを見ていた。
自分じゃ気づかなかったけど、彼女といる時いつもこうなのかな。だったら恥ずかしい。
けどこんな風に、いつも彼女の隣にいられたらどんなに良いか。
この写真を見ているだけで、この時の幸せだった思い出が蘇ってくる。
その時。
ポタッという小さな音がした。
視界が滲み、写真に雫が落ちる。
(…何で泣いてるんだ俺)
写真を濡らさないように涙を拭くが、それはとどまることを知らない。
まただ。無意識に涙が溢れてくるのは。最近自分の涙腺が緩んでいる気がする。
最近というか、あの人と出会ってから。
「…Aさん」
どうしてこの人は、俺にこんな顔させられるんだろう。
いや。どうしてなのかくらい自分が一番分かっているはずだ。
「好きだ」
蚊の鳴くような声で想いを口にする。
今まで強く否定し続けてきた気持ちを、ついに認めてしまった。
また自分の中にある誰かが出てきて言った。「元に戻れなくなっても知らないぞ」と。
仕方ないじゃないか。
俺はAさんが好きなんだから。好きでたまらなくなっていたんだから。
こんなどうしようもない痛みを抱えて、もう誤魔化しようがない。自分の気持ちに嘘をつき続けることがこんなに辛いことだったなんて知らなかった。
「…なら、俺はどうすれば良いんだよ…」
仲間の恋と自分の恋、天秤にかけてみても結果は同じだ。俺だって、本当はヒロトの邪魔はしたくない。
…最初からそう思っていたはずなのに、何度もAに必要以上に近づいていた。
好きだから、ダメなことだと分かっていてもそばにいたかったんだ。
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紅葉(プロフ) - 夜空さん» コメントありがとうございます！楽しみにしていただいてとても嬉しいです！これからも更新頑張ります！ (2019年9月29日 11時) (
レス) id: bcd97f376b (このIDを非表示/違反報告)
夜空 - とても面白くて新しい更新を楽しみにしてます！タツヤの恋も応援したい！ヒロトの恋も応援したい！どうなるの〜汗 (2019年9月29日 2時) (レス) id: d246f2b775 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - ドルチェさん» コメントありがとうございます！とても嬉しいです！これからも更新頑張ります！！ (2019年9月23日 12時) (レス) id: bcd97f376b (このIDを非表示/違反報告)
ドルチェ - 紅葉さん,いつも楽しみにしてます！これからも拝読させて頂きます！頑張ってください！ (2019年9月23日 12時) (レス) id: 697128a6e4 (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - ルナさん» コメントありがとうございます！アツヤの登場でさまざまな人間関係が大きく変わっていく、ということをテーマに書いていく予定ですので、楽しんでいただけると幸いです。これからも頑張ります！ (2019年9月14日 8時) (レス) id: bcd97f376b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紅葉 | 作成日時：2019年9月8日 22時
