264、誇りに思ってる ページ17
士郎「…Aさん、僕はね」
貴女「？」
士郎が突然ぴたりと立ち止まると、Aも遅れて立ち止まった。
士郎「Aさんと一緒に日本代表に選ばれたことを誇りに思ってる」
貴女「えっ」
「それはアツヤだって一緒だよ」士郎はそう加えた。
士郎「…強いて言うなら、君はもう少し自分に自信を持ったプレイをしていいと思うよ」
貴女「…はあ…」
藪から棒過ぎて、Aは曖昧な返事しかできなかった。
士郎「……だから」
Aに向かい合い、言った。
士郎「君ならこれからも大丈夫だよ」
士郎がそう呟いた途端、冷たい風が二人に当たった。
貴女「いきなりどうしたんですか…？」
まるで、お別れの言葉みたいな言い回しにAは胸騒ぎがした。
士郎「つまりはね…同じ仲間として、お互い頑張ろうって言いたかったんだ」
…本当に、それだけ？
士郎「寒くなってきたね。戻ろうか」
士郎はいつもの笑顔に戻った。
Aも静かに頷くしかできなかった。
＿__次の試合、絶対に勝とうね。
そう言われて、士郎とは別れた。
Aは士郎の真意がよくわからないまま、ヒロトの部屋へ向かっていた。
今抱えているモヤモヤを払う為にも、士郎や析谷の言う通り次の試合に勝つ為にも、ヒロトと仲直りしない訳にはいかないと思ったから。
そう考えながら曲がり角を曲がろうとすると、ヒロトもそこから出て来た。
貴女「わっ」
吉良「！お前…」
すんでのところでぶつからずに済んだ。
だが、お互い何と声をかけていいか分からず、しばらく沈黙が流れた。
…まさかこんな会い方するとは思わなかったから、最初に何言おうとしたか忘れてしまった。
すると、ヒロトからいきなり腕を掴まれた。
貴女「！？」
吉良「…ちょうどお前のとこ行こうとしてたんだよ」
貴女「…？」
吉良「話があるんだ。もう逃げんじゃねえぞ」
…逃げたい。
謝りたかったはずなのに、妙に圧のあるヒロトを前に慄いてしまいそうだ。
吉良「…悪かった」
貴女「……えっ？」
ヒロトの意外過ぎる言葉に、Aは間の抜けた声が出た。
吉良「…ずっと謝りたかったんだよ。だからそんな怯えんな。俺は別に怒ってるわけじゃねえ」
それだけ言うと、ヒロトはAからそっと手を離した。
いつにも増して優しい声で語りかけるヒロトからは、もう怒りなど感じられなかった。
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作者名：紅葉 | 作成日時：2019年8月23日 13時
