282、羽ばたく時 ページ35
「Aの場合、自分との向き合い方の問題だね」析谷はまだ呼吸を乱しながらも、Aに言った。
貴女「え…?」
析谷「スペインチームも嬉しいだろうな。Aからここまで慕われているなんて」
貴女「…そんなこと…」
析谷「緊張するのは別に悪いことじゃないしな」
それほどこの試合に真剣に向き合っている証拠だと、析谷は言ってくれる。
貴女「で…でも…」
析谷「こら、Aは「でも」とか、「私なんか」とか、後ろ向きなことばかりだぞ」
貴女「…!」
__私なんか、なんて言うな。
「あの人」の声が聞こえた気がした。
円堂「ずっと楽しみにしていたんだろ?なら、楽しまないと損だって!」
貴女「!」
いつもの彼らしいことを笑顔で言う円堂。
円堂「楽しんで行こうぜ。この試合!」
…楽しむなんてすっかり忘れていた。そのことを今の円堂を見て気づいた。
風丸も、Aに向けて小さく頷いていた。
「…みんな…」優しい仲間達を見渡し、頑張って涙をぐっと堪える。
私は今まで一度でも、自分を信じたことがあるだろうか。…いや、無い。
…分かってたはずなのに。
誰よりも、自分の頑張りを一番知ってるのは自分だと。
最初から頑なに、自分はどうせ何をしても無理だって決め付けていた。
失礼な人達の意見を真に受けて落ち込んだりとか、支えてくれている人達の想いを無駄にしたらどうしようとか…そればかりで。
深呼吸をゆっくり何回か繰り返し、頰を叩いた。よし、と心の中で気合いを入れて、全員へ向けて勢いよく頭を下げる。
貴女「…お騒がせして、すみませんでしたッ!」
もう、大丈夫です。そう言って顔を上げるAの顔からは迷いが消えたように見える。
大谷「Aちゃん頑張って!」
貴女「はい!!」
応援してくれるつくし達に笑顔を向けて、Aはフィールドへと走って行った。
今更ながら、私は今すごく幸せ者なんじゃないかと思う。自分の夢が叶う瞬間に立ち会っているんだから。
貴女「…楽しんで行こうぜ。」
この試合、この瞬間を全力で楽しまないともったいない。そう考えられるようになってきた。
天使が羽ばたく時が、近づいてきていた。
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作者名:紅葉 | 作成日時:2019年8月23日 13時