天使(仮)の人生は平穏無事とはいかない。11【オリオンの刻印】 (ページ3)

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『だから、どうか怒らないであげてください』

『す…すみませんでした…』

母の怒りも、徐々に収まったようだ。
もうあまり怒られなくて済みそうだと、少しホッとしていると。

『偉かったな。君はあんなに小さな命を守ったんだ』

美しい笑顔で、頭を撫でられた。

この時、世界にはこんなに優しい人がいるんだと知った。

それからは、フロイに次いで会う機会も増えた。

こんな人になりたいって、何度も思った。
でも、どれだけかかってもこんな人にはなれないんだろうなって思った。

こんなに、優しくて強い人間には。

『Aは母親が嫌いか？』

ベルナルドはAを見ていて思うところがあるらしく、唐突にそう聞いたことがある。

『ううん。私が嫌いなのは私』

母を怖いと思うことは多い。

でも自分がこんなに弱虫じゃなければ、母を怖いと感じることもないんだろうなって思うから。

『……やはりそうか。お前と私は、どこか似ている』

『え…どこが？』

『……自分に自信が持てないところ…かな』

『……へ？』

『だから放っておけないのかもな』

当時は、その人の言っている意味がよく分からなかった。

けど今なら、よく分かる。

「バカ…」

体を起こすと、Aは再び走り始めた。

バカ、バカ、バカ！

どこが似てるんだよ！？

私なんかよりあなたの方が何倍も、何百倍も辛い思いしてきたんじゃない！！

なのにあなたはいつも笑って、私の面倒を見てくれていた。

「優し過ぎる、そんなの…」

悔しくて、情け無くて、涙が溢れる。
あの人の辛さに、今まで気づけなかったなんて。

「私の、バカ…」

でも私はもう、あの頃の自分とは違う。

私は頭が回る方じゃないから、気の利いたことも言えないかもしれないし、元気付け方の正解もわからない。

それでも私にだって、出来ることくらいあるはずだ。

これから自分のしようとしていること、それを何て言うかはもう分かってる。

＿＿＿君は、誰であろうと、困っている者を絶対に放っておかない人だから。

新条さんはああ言ってくれた。
それは言い方を変えれば「お節介」。今まで何度も言われてきた言葉だ。新条さんはそんなつもりで言ったんじゃないだろうけど。

ベルナルドさんも、困っている人を放っておかない人だった。だからいつも私達に寄り添ってくれた。

だけど私はベルナルドさんじゃない。
誰かを助けたいなんて言いながら、空回りばかりだった。だから何度もお節介だと言われてきた。