第38話 ページ40
主人公side
「そんなことが……」
口元に手を当て驚く桜乃ちゃん。
自分からボロを出して結局全部話すことになってしまった俺、なんて間抜けなんだ。
溜息を吐きながら、ワックスで整えた髪をぐしゃぐしゃと掻く。幻滅しただろう彼女の顔を見たくなくて、そのまま膝に肘をつき顔を手で隠した。
普通は嫌だよな。
馬鹿みてぇな練習で部員を故障させた事のある奴に練習教わるなんて。
「もう、俺との練習は辞めにするか?」
「え……?」
「考えてもみろよ。二度とテニスを出来ねぇようにした野郎に教えて貰いたいかって」
「……」
「最初から思ってたけどよ、危機感がなさ過ぎなんだよ桜乃ちゃんは。俺が良い人だって分からねぇのについてくるし簡単に連絡先教えるし。普通あり得ねぇだろ?」
自暴自棄になってるからか、ペラペラと早口で出てくる言葉は収まりが効かず桜乃ちゃんにぶつけられていく。
自分で言ってて嫌な奴だなって思う。
普通だったら、この子が俺を好きになる要素なんて、何一つ無い。好かれる為にやってた事は、俺の出したボロによって儚くも消えた。
どうせ幻滅されるんだったら、このもやもやした気持ち悪い感情も何処かへ行って欲しい。
「でも、その頃の東さんと今の東さんは違いますよね」
桜乃ちゃんの柔らかい声が降ってくる。
思わず声の方へ顔を上げれば、予想していた幻滅でも嫌悪でもなく、いつもの様にふにゃりと笑う姿があった。
「だって、私は怪我もせず東さんと楽しくテニスをやっているんですから!」
そう言い切った彼女がとても眩しい。
あんなに弱ってて、泣きじゃくってた、守らなきゃならないって思ってた女の子。
「思ってたより度胸あるんだなぁ……」
ぽつりと呟いたそれは彼女には届いてないみたいで、瞳を丸くさせてキョトンとする姿に思わず笑いが込み上げる。
思い切り笑うのはいつ振りだろうか、笑い過ぎて痛くなる頬。口元に手を当てながら、大笑いしていると、彼女もつられてふにゃりと笑った。
鈍感で、度胸があって、顔も性格も好みのタイプ。
今後こんなに好きになれそうな女はいないだろう。
「ここで練習辞めておけばよかったなんて後悔すんなよ?怪我しねぇ程度に鍛えてやる」
「はい!先にコートに入ってますね!」
嬉しそうに笑って、三つ編みを揺らして走る彼女の後ろ姿。
「ぜってぇ落とす」
思わず溢れた俺の声は風に消され彼女には届かない。
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バンビ(プロフ) - 猫好きさん» ありがとうございます。更新がゆっくりになってしまっていますが、続編をポチポチと作成していますのでそちらも続けて読んでいただけるように頑張らせて頂きます。 (2020年9月4日 0時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
猫好き(プロフ) - とても面白いです!続きが楽しみなので、これからも更新頑張ってください! (2020年9月3日 18時) (レス) id: 9581fd09d5 (このIDを非表示/違反報告)
バンビ(プロフ) - わんにゃんさん» ありがとうございます。中々更新できず申し訳ありません!!できるだけ早く更新できるよう頑張らせて頂きます。 (2020年7月2日 21時) (レス) id: ff777945fb (このIDを非表示/違反報告)
わんにゃん - とても面白くてこの作品大好きで応援しています!頑張ってください、楽しみにまってます!! (2020年6月30日 18時) (レス) id: 6ebda506cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:バンビ | 作成日時:2020年1月2日 17時