第57話 ページ12
ぺたぺたと廊下を歩く。後ろから、音も立てずにシャルルが着いてくるのが分かる。向かうのは、両親の部屋だ。
ガチャ、とドアを開ける。弾かれたように顔を上げたのはお父様だ。そこに一瞬安堵の表情が浮かび、すぐに消えた。
「おはよう、A」
ふわ、と笑ってお母様が言う。その後ろから、紅茶を淹れていたらしいセバスチャンが、おはようございます、と一礼する。
「おはようございます、あの…」
「昨晩は倒れられたんですよ、眠気で」
質問する前に、セバスチャンがそう答える。日付を跨ぎ、精神的にも体力的にも疲弊しきった結果、身体に限界が来たのだろう、とのことだった。
「カーチェスったら大変だったのよ、Aが倒れた途端、大慌てで…」
「馬鹿者、言うな！」
お父様が慌ててお母様を制する。お母様は手を口に当てて、くすくすと笑っていた。
「…それで、A」
ごほん、と一つ咳をして、お父様の顔が真面目なものに一変する。私も、自然と表情が引き締まった。
「お前の決意に、変わりは無いんだな？」
一語一語、落ち着いた言葉。無論だ。
「はい。勿論です」
はっきりと、そう答える。
「…そうか…」
自分と同じ琥珀色の瞳が、溜息と共に閉じられた。
「…6年だ」
「…え？」
「王位継承は20歳…18歳からの2年間を準備に充てる。それまでの6年間は、好きにしなさい」
紅茶の注がれた華奢なティーカップが、ゆっくりと口元に運ばれていく。その手は、微かに震えていた。
「それって…！」
顔を向けると、お母様が微笑み、頷いた。
「やったぁぁっ!!」
シャルルがびくっと体をすくめる。状況を全く理解していないそれを抱き上げ、私はくるくると回った。腕の中の猫は、迷惑そうに身体をよじらせていた。
「ほら、まずは着替えて、顔を洗っていらっしゃい。朝食がまだでしょう？」
「はい、お母様っ！」
満面の笑みで答え、くるりと回れ右をし、ドアを開ける。もう一度、にこりと笑顔を見せて、私は部屋を後にした。
ラッキーアイテム
革ベルト
ラッキーカラー
あずきいろ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 55人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美翔(プロフ) - ニャー♪さん» コメントありがとうございます！ちまちま伏線を仕込んでいたりするので、楽しみにしていてくださいね♪ (2015年2月7日 23時) (
レス) id: 25a2966a5a (このIDを非表示/違反報告)
ニャー♪ - とても面白いです！これからの展開が楽しみです♪ (2015年2月7日 22時) (レス) id: 0827b25480 (このIDを非表示/違反報告)
フラン(プロフ) - 小悪魔女子さん» コメントありがとうございます！楽しんでいただけているようで、本当に嬉しいです。これからも頑張ります！ (2014年12月25日 15時) (レス) id: 45953354bd (このIDを非表示/違反報告)
小悪魔女子 - 物凄く面白く楽しませてもらってますそして私は、応援してます！ (2014年12月24日 1時) (レス) id: 8999ac6131 (このIDを非表示/違反報告)
夏実(プロフ) - 頑張って下さい!!ずっと応援しているので！ (2014年11月29日 23時) (レス) id: 129fe6e4a0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：美翔 | 作成日時：2014年6月11日 7時
