. ページ20
弟がいなくなった日のことを覚えている限り目の前の迅さんに話すと、特に何も言われないまま彼は去ってしまった。
迅「そっかそっか、ありがとう。また何か分かったら伝えにくるよ。
いやでも、それより前にまた会えるか…。
ま、とにかく君は頑張って生きてよ。今はそれ以外にすることないんだからさ。」
だなんて、何やら意味深な捨て台詞(？)を残したままどこかに行くものだから、私の頭の中ははてなでいっぱいだ。
この出会いから１週間後、あの大規模侵攻が三門市を襲った。
東三門全壊・1200人以上の死者・400人以上の行方不明者。甚大な被害を及ぼしたこの出来事は、ボーダーと呼ばれる組織によって収束。近界民という名前も世に知れ渡ることとなった。
『迅…さん……？』
何より、突如ヒーローのように現れたボーダーの一員であるかのように振る舞う迅さんに驚いた。
同時に、私の中で何かが繋がったような気がした。
『ボーダー、近界民、迅さん……。もしかして…！』
どこに行けば迅さんに会えるなんて、見当もつかないけどでも私はとにかく走った。
大きな大きな、ボーダー本部に向けて。
迅「あ、いた。」
私の焦りなんて知ったこっちゃないと言わんばかりの、のんびりとした声。ついこの間まで最前線で戦っていた人とは思えない。
『じ、じんっ、さ、』
迅「あーこらこら、そんなに慌てて。」
まず聞きたいことがたくさんあったのに。近界民のこととか、迅さんが何者なのかとか、颯太のこととか。
たくさん走ったからかなかなかうまく言葉が出てこない。
迅「君が来るって思ってた。聞きたいとこはたくさんあるだろうけど、今はまだ答えられないものばかりなんだ、ごめんね。」
『じゃあ、颯太は、弟は、近界民、に、さらわれ、たんですか。』
整わない息を気にせずに1番聞きたかったことを問う。
細くても、希望があるのなら。
迅「結論から言うと、分からない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。」
『そ、う…ですか……。』
迅「でも」
落ちた目線をまた迅さんに向ける。
迅「生きているかもしれない。どこかで、君を待っているかもしれない。
まだ、死んだと確信したわけじゃない。」
あぁ、そうか。
私は無意識に、心のどこかで諦めていたのか。
迅「諦めるには、まだ早いんじゃない？」
諦めなくても、いいのか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 63人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：通りすがりのいぬ | 作成日時：2022年5月19日 20時
